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星瞬きし空の下で 第一話 Cパート [星瞬きし空の下で]

 その日の夜、日付も変わろうかという時間に桜は再び体育館を訪れていた。
「最近どんどん、結界がもたなくなってきてる……。一度、琴璃に頼んだほうがいいかなあ」
 昔から、この敷戸地区の結界の消耗は激しい。私立の学校法人『明洋』がこの一帯を買い取って、幼稚園から大学までの一環教育拠点として造成した際に、地脈に致命的なダメージを与えたことが原因ではないかといわれているが、詳しいことは分かっていない。そこで数年に一度、結界系の術の専門家である雪原琴璃に頼んで大規模結界を展開してもらい、綻びが生じればその都度別の結界を張ることで蓋をしていくという、雨漏り対処をしているというわけだった。
「前のやつは解除してからのほうがいいかな」
 この手の結界は地脈から霊力の供給を受けて稼動するタイプが多い、そうでなければ術者にかかる負担があまりにも大きいからだ。しかしその代わり、地脈から供給される霊力は一定であるため、家の水道の蛇口を一斉に開ければ勢いが弱くなってしまうように、一つ一つが弱くなってしまうのだ。
 張りなおす結界の準備をしてから、桜は以前に張った結界を解除する。しかし解除したとたん、今まで辛うじて止めていた異形たちが次々に湧きあがって来た。幸い数はそこまで多くないようで、十分いけると判断した桜は自分の刀を抜いた。
「清月流、新月」
 刀にこめた霊力を地面にたたきつけて周辺に伝播させる技であり、あまり威力は大きくないが広範囲を一度に攻撃することが出来る。効果を確認すると、桜はすぐに止めをさしに動く。だがそのとき、背後で玄関扉の開く音がした。
 ……ッ!!
 とっさに異形たちから距離をとって振り向くと、そこには一人の少年が立っていた。目の前で、刀を持った少女が一人暴れているようにしか見えないのだろう、呆然としている。しかし、次の瞬間
「あぶないッ!!」
「え……」
 少年に気を取られすぎて注意が散漫になっていた。再び振り返ると、もう異形の間合いに入ってしまっていた。攻撃そのものは止めれたものの、このままでは力負けして押し切られてしまう。何か手をと必死に考えていると
「うおおおおおお!」
 少年が、出しっぱなしになっていたモップを手に異形へと斬りかかる。
「ダメ、見えたからって倒せるものじゃ」
 返り討ちにあう、そう思った桜は少年を止めようとする。しかし、少年の攻撃は桜を押さえ込んでいた異形を捉え、斬断した。
「あなた……」
 逆に立ち尽くすことになった桜に、少年からの檄が飛ぶ。
「何やってんだ!! お前も見えるし闘えるからやってんだろ!!」
 その言葉で我に返った桜も攻撃に加わり、二人の連携によってこの場の異形は倒され、結界も張りなおされた。
 この場は終わったが、唐突に現れて闘った少年に桜は訝しげな表情をむける。とはいえ、助けられたことには間違いないのだからと思い直して口を開いた。
「ありがとう、助かったよ」
「ああ」
 そう返してくれたが、少年はそれ以上何も言わない。仕方なく、どこの誰かぐらいは確かめようと桜は続ける。
「あの、助けてもらったのにこういうこというのはなんなんだけど……」
 あなたはどこの誰、そう続けようとしたとき、少年はばたりと倒れこんでしまった。
「え?」
 あわてて駆け寄って、少年を起こそうと体に触れると、霊力がほとんど感じられなくなっていた。霊力の低い人間でも、生命の危機に瀕して瞬間的に霊力が上がることままある。ただ、そうやって危機を回避してもそのことで霊力を消耗しすぎてしまい、結局死んでしまうこともある。幸い、少年は常時闘えるレベルの霊力を持ってはいるようだが、それでも消耗しすぎていることには変わりないようだった。
「うう、どうしようこの人……」
 流石に、このままほっぽって帰るつもりはなかったが、どうやら引きずって帰るしかなくなってしまったようだ。
「こういうのって普通、逆なんじゃないかなあ」
 そんな愚痴をこぼしながら、桜は少年を引きずって家路へとついた。


 つづく。
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