SSブログ
星瞬きし空の下で ブログトップ
前の30件 | -

祝! 復活記念星空座談会 [星瞬きし空の下で]

誠也  約5年ぶりか……?
梓    そーね、そんなもんね。
椿    どうせまた、似たようなことになりますからこんなことしてもね?
桜    あはは……。



誠也  まぁブログでUPするとなれば、1回の分量はHP時代よりずっと少ないわけだしな。
     なんとかなるんじゃないか?
梓    だといいけど。
椿    いずれにしても、期待できませんね。上手い区切り方も考えなければなりませんし。
桜    そうだね、でも今のうちから悲観ばかりしてても仕方ないし、一応、期待しよう?
誠也  確かにそれはそうだが……、一応って何気にひどいな!
桜    ???

桜    そんなわけで、『星瞬きし、空の下で』半月に1回くらいで連載予定だそうです!
一同  よろしくお願いします!




作者の言い訳


星瞬きし空の下で 第一話 Aパート [星瞬きし空の下で]

第一話 そうしない理由もないんじゃないかな


 桜はすっかり葉桜になってしまったとはいっても、まだまだ夏には早い四月の終わり。爽やかな風の吹く季節、……も今日は一休みのようで、いわゆる春の雨が降っていた。そんなわけで予定を変更して、男子はバスケを女子はバレーをやっているというわけだ。
「頑張れー」
 今は他のグループがプレー中で、桜たちは適当な応援をしながら休憩中というわけだ。
「しばらく、体育の授業のある日は雨降ってほしいわねー」
 桜の隣に座る、親友の北崎深耶はそう言った。
「まぁ、そうだね……。年度初めは体力測定とかで面白みないもんね」
そんな他愛無い世間話をしていたときだ、コートでプレーしていたクラスメートの谷澤春香の悲鳴があがった。
「どうした、谷澤!!」
 体育館にいる全員が春香の視線の先に注目するが、そこには何もない。いや、正確にはなにも『見えなかった』。ただ一人、桜以外には……。
「何もいないよ春香!!」
深耶は春香にそう言いながら倒れた駆け寄ろうとしたのだが、その瞬間眩い光がその場を支配した。
「これは、まずいなあ」
 斬!!
 春香が見たものへ一撃で止めを刺すと、もといた位置へ戻り、視界を奪った光を生む呪符をしまう。
「桜、今の」
 互いの位置が悪かったらしい、どうもその動作を深耶に見られてしまったらしかった。
「あ……」
 とりあえず、他の人たちは春香の方に注目していて気づかなかったようだが、流石に今ここでどうこうするわけにもいかない。
「ごめん、後で」
 深耶も察してくれたようで頷いてくれ、春香の方へと駆け寄っていった。


  つづく。

星瞬きし空の下で 第一話 Bパート [星瞬きし空の下で]

「何から話そうか」
 流石におおっぴらに話す内容ではないので、二人は放課後になるのを待って桜の家に来ていた。道中沈黙したままの気まずい空気だったので、桜は早めに切り出したのだ。
「最初からお願い」
 もっとも、そう訊かれるであろうことは察しがついていたので、桜はゆっくりうなずくと口を開いた。
「うん。ただ、これから話すことは口外しないでね」
 深耶もうなずく、親友である自分にも秘密にしていたことなのだから、それ相応の理由と重みがあるのだろう。
「もちろん、わかってるよ」
そう答えると、桜は少し笑って話し始めた。

 桜が語った内容は要約すれば、彼女の修める清月流剣術は対魔剣術であるらしい。つまり霊力は実在し、霊的なものや魔もまた存在する。そして桜のような存在の人々をまとめる、“組合”と呼ばれる組織によって、今日のような事件の対処などを行われ、裏で平和が守られているとのことだった。
「実際見ちゃったんだから信じるしかないか」
 まぁこういう反応が大半なんだろう、桜も苦笑いを浮かべている。しかし、それなら無理に秘密にする必要もないような気がする。深耶はそれを訊くことにした。
「ねえ、正直言いふらしたところで、笑い飛ばされるのがオチだと思うんだけど」
「うん、まぁそうなんだけどね。もし、この話が真実だと知れ渡ってしまったら、持つものと持たざるものの対立が起こるのは間違いないから」
 そこまで気が回らなかったが、確かにそうだろう。だから無闇に言いふらしたりはしないように決められてるんだよと桜は続けた。
 それで、秘密が守られている理由は分かったが、そうなると人間次に気になるのは自分の力というものだ。
「で、私ってどうなのかな?」
 その質問は予想済みだったんだろう、ため息をつきながら桜は答えた。
「並だね、霊力が高ければ春香の視線の先にいたのが見えたはずでしょ?」
 それもそうだ、残念ではあるがそんなもんだろう。
「……まぁ、素質はあるんだけどね」
 桜は聞こえないように小声でつぶやく。命の危険もあることだから、親友を巻き込みたくはなかった。
「ん? 何か言った?」
「ううん、何も言ってないよ」
 深耶は訝しげな表情をしていたが、すぐに興味の対象が移ったようだ。
「ところで、春香ってどうなの? 最初に悲鳴をあげたぐらいだから見えてるんだよね、彼女も“組合”の一員なの?」
「違うよ、彼女から感じる霊力とか今日の様子とか見ると、おそらくはっきり見えていると思う。でも、闘えるほどの霊力はないから」
「そっか見えるぐらいじゃダメなら、桜はもっとすごいってことか」
 自分には、それを感じる能力も欠如しているらしいから分からないが、親友が大変な世界に身を置いているらしいことはわかった。
「大変じゃない?」
 そう尋ねた、でも桜は笑って
「大変だよ、でもそれで守れたものがたくさんあるから。これからも続けていけるよ」
 そう答えた。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第一話 Cパート [星瞬きし空の下で]

 その日の夜、日付も変わろうかという時間に桜は再び体育館を訪れていた。
「最近どんどん、結界がもたなくなってきてる……。一度、琴璃に頼んだほうがいいかなあ」
 昔から、この敷戸地区の結界の消耗は激しい。私立の学校法人『明洋』がこの一帯を買い取って、幼稚園から大学までの一環教育拠点として造成した際に、地脈に致命的なダメージを与えたことが原因ではないかといわれているが、詳しいことは分かっていない。そこで数年に一度、結界系の術の専門家である雪原琴璃に頼んで大規模結界を展開してもらい、綻びが生じればその都度別の結界を張ることで蓋をしていくという、雨漏り対処をしているというわけだった。
「前のやつは解除してからのほうがいいかな」
 この手の結界は地脈から霊力の供給を受けて稼動するタイプが多い、そうでなければ術者にかかる負担があまりにも大きいからだ。しかしその代わり、地脈から供給される霊力は一定であるため、家の水道の蛇口を一斉に開ければ勢いが弱くなってしまうように、一つ一つが弱くなってしまうのだ。
 張りなおす結界の準備をしてから、桜は以前に張った結界を解除する。しかし解除したとたん、今まで辛うじて止めていた異形たちが次々に湧きあがって来た。幸い数はそこまで多くないようで、十分いけると判断した桜は自分の刀を抜いた。
「清月流、新月」
 刀にこめた霊力を地面にたたきつけて周辺に伝播させる技であり、あまり威力は大きくないが広範囲を一度に攻撃することが出来る。効果を確認すると、桜はすぐに止めをさしに動く。だがそのとき、背後で玄関扉の開く音がした。
 ……ッ!!
 とっさに異形たちから距離をとって振り向くと、そこには一人の少年が立っていた。目の前で、刀を持った少女が一人暴れているようにしか見えないのだろう、呆然としている。しかし、次の瞬間
「あぶないッ!!」
「え……」
 少年に気を取られすぎて注意が散漫になっていた。再び振り返ると、もう異形の間合いに入ってしまっていた。攻撃そのものは止めれたものの、このままでは力負けして押し切られてしまう。何か手をと必死に考えていると
「うおおおおおお!」
 少年が、出しっぱなしになっていたモップを手に異形へと斬りかかる。
「ダメ、見えたからって倒せるものじゃ」
 返り討ちにあう、そう思った桜は少年を止めようとする。しかし、少年の攻撃は桜を押さえ込んでいた異形を捉え、斬断した。
「あなた……」
 逆に立ち尽くすことになった桜に、少年からの檄が飛ぶ。
「何やってんだ!! お前も見えるし闘えるからやってんだろ!!」
 その言葉で我に返った桜も攻撃に加わり、二人の連携によってこの場の異形は倒され、結界も張りなおされた。
 この場は終わったが、唐突に現れて闘った少年に桜は訝しげな表情をむける。とはいえ、助けられたことには間違いないのだからと思い直して口を開いた。
「ありがとう、助かったよ」
「ああ」
 そう返してくれたが、少年はそれ以上何も言わない。仕方なく、どこの誰かぐらいは確かめようと桜は続ける。
「あの、助けてもらったのにこういうこというのはなんなんだけど……」
 あなたはどこの誰、そう続けようとしたとき、少年はばたりと倒れこんでしまった。
「え?」
 あわてて駆け寄って、少年を起こそうと体に触れると、霊力がほとんど感じられなくなっていた。霊力の低い人間でも、生命の危機に瀕して瞬間的に霊力が上がることままある。ただ、そうやって危機を回避してもそのことで霊力を消耗しすぎてしまい、結局死んでしまうこともある。幸い、少年は常時闘えるレベルの霊力を持ってはいるようだが、それでも消耗しすぎていることには変わりないようだった。
「うう、どうしようこの人……」
 流石に、このままほっぽって帰るつもりはなかったが、どうやら引きずって帰るしかなくなってしまったようだ。
「こういうのって普通、逆なんじゃないかなあ」
 そんな愚痴をこぼしながら、桜は少年を引きずって家路へとついた。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第一話 Dパート [星瞬きし空の下で]

「ただいま。ごめん、ちょっと緊急事態!!」
「どうした、一人じゃあ対処できない状況になったとか言うなら」
 どうやら桜の父親である隆之は、桜がミスったと思ったらしい。
「違う違う。この人が突然倒れて」
 桜は、二階にある空き部屋に少年を運ぶのを手伝いながら、事の一部始終を話して聞かせた。

「なるほど、知らない顔だな」
 組合から新たに派遣されたにしても、このあたりの担当である桜の家に話を通さないのはおかしい。確認してみる必要はあるが、おそらく無駄だろう。
「まぁ、起きてくれないことにはどうしようもないだろうな」
「うん」
 とはいうものの、桜も修行時代には何度かやらかしたからわかるが、こうなると3~4日は起きれないし、起きたら起きたですさまじく体がだるい。自分が少年を闘わせるようなことをしなければ、倒れることはなかっただろうということを考えれば、申し訳ない気持ちになる。それを感じ取ったのか、母の奏が口を開いた。
「まぁ、一番体力ある頃だし2日もすれば起きてくるでしょ。責任感じてるならついててあげなさい」
「うん」
 桜がうなずくのを見た二人は、満足そうに部屋を出て行った。ドアが閉まり二人が階段を下りる音が消えると、桜は一言、
「ごめんなさい」
 そうつぶやいた。

 それから、桜はできるだけ少年のそばについていた。
「そろそろ起きてもいいと思うんだけどな」
 ついているとは言ったものの、具体的に何か看病する必要があるわけではないから、暇なのは否めない。仕方なく少年をずっと眺めているわけだが、それももうとっくに飽きた。じっくり見ると意外とかっこよかったのだが、だからなんだといわれたらそれまでだ。少しぐらい離れてもと思いかけたそのときだった。
「う、うう」
 少年は、少しうめくとゆっくりまぶたを開き上体を起こそうとしたが、やはり体がだるいのだろう、すぐに倒れこんでしまった。
「気がついた?」
桜はそう声をかけた。
「ここは?」
「私の家。あなた、私と一緒に戦った後すぐに倒れちゃったから」
 訊きたい事はいろいろあるが、まずは少年の質問に答える。
「そうか、あの時俺は」
「状況は理解できた? 早速で悪いけど、あなたの名前は?」
 起き上がれないのでは、奏が作ってくれていた料理を出すわけにもいかないので、今度はこちらから訊いていくことにしたのだが、
「俺は……」
 少年はそこで、言葉を詰まらせた。
「どうしたの?」
 訝しげに桜は、問い返す。しかしそこで返ってきたのは、予想の斜め上を遥かに超えた答えだった。
「……思い出せない」
「え、ええ~~~~~!!」


 つづく。

星瞬きし空の下で 第一話 Eパート [星瞬きし空の下で]

 アニメや漫画じゃないんだから、そうは思うものの、事実は小説よりも奇なりともいうし、なんてことばかり頭の中を駆け巡って、とてもまともな答えなど、でてきそうになかった。
「どうした、起きたのか?」
 二階の騒ぎに気づいたのだろう、隆之と奏が階段を上がってきた。
「彼、どこの誰だって?」
 奏は、当然すぐに判明したものとしてそう聞いたはずだった。
「それが、……思い出せないんだって」
 二人ともその場で固まってしまう、身元判明のための唯一の手がかりも失われたからだ。

「こうなると、可能性として高いのはどこかの組織の人間という線か?」
 当然といえば当然だが、霊力を用いて混乱を起こそうという人間たちもいる。
「そんなの、まだわからないじゃない」
 桜にしては珍しく、強い否定だった。
「それはそうだ。父さんだって彼を悪人にしたいわけじゃないし、記憶を失っている以上、お前が話していたような気性が、彼の本来のものだろう。ならば、あの性格でそれが出来るとは思えないしな」
「うん」
「だがこれだけの霊力をもっていて、組合どころか戸籍にも名前がないとなればな。気には留めておく必要がある」
 そんなことはわかっていた。だが、桜はそれを認めたくはなかった。
 そのとき、ゆっくりと階段を下りる音が聞こえてきた。
「とりあえず、この話は本人には内緒にしておきましょう。たとえそうでもそうでなくても、彼ならまだどうとでも変われるはずだから」
 三人はうなずきあい、そして桜が立ち上がり、居間へと少年を招きいれた。
「すいません、見ず知らずの俺にこんなによくしてくださったのに、名乗ることさえ出来なくて」
「いや、構わないよ。この未熟娘を助けてくれたんだ、このくらいはさせてもらう。それより、もういいのか」
 少年は静かにうなずいた。
「何の御礼も出来ないですけど、お世話になりました」
さらに、少年はそう続けてきびすを返した、しかし、そのとき呼び止める声が聞こえた。
「ねえ、行くあてはあるの?」
 桜のその声に、少年は振り返った。
「記憶がないんだぞ、あると思うのかよ?」
 桜の目を見て答えるその顔には、自嘲的な笑みが浮かんでいる。あきらかなミスに桜はすぐに謝った。
「ごめん、そうだよね」
「いや、気にするな。もう会うこともないだろうしな」
 そう言うと、少年は再び背を向け振り向くこともせずに出て行こうとする。とはいえ、行く当てもない人間を、このまま見送っていいものだろうか。流石に、それが出来るほど冷徹にはなれなかった。
 桜は二人の顔を見た、でも心配することもなくその顔は、お前の思うとおりにしろと言ってくれていた。
「ねえ、行くあて……ないんだよね? しばらく家にいてくれない?」
「そうする理由がない」
 軽く振り返ってそれだけいうと、少年は再び背を向ける。だが、桜もそれぐらいでは引き下がらない。
「そうしない理由も、ないんじゃないかな?」
「それは……」
 少年の動きがようやく止まる。脈はあるそう判断した、桜はさらに続けた。
「私、助けてもらったから。そのお礼もしたいし、なによりそんな状態で送り出したくない。……だから、ね」
 桜の言葉には、裏のようなものは感じられない。
「そうか、なら、そうさせてもらってもいいですか。かっこつけて出て行って野垂れ死にじゃあ、洒落になりませんから」
 桜は微笑んで少年を見つめる。そのかわいらしさに、少年はなんとも言えない雰囲気で、気圧されたようになってしまう。図らずも見つめあう形になってしまったが、桜はなぜかすぐに困ったような顔になって、少年に話しかけた。
「ねえ、名前どうしようか」
「そうね、ずっといてもらうなら、名無しのままって訳にはね」
 三人の目が、一斉に少年に集中する。どうも勝手に決められる前に、自己主張したいことはあるかということらしいが、突然では浮かぶものも浮かばない。
「突然そんな目で見られても、な。それに、こういうときに自分でつけても、ろくなもんにならないからな。そっちで決めてくれていい」
 正直、自分たちで考えたくないと思っていたのだが、そう言われてはどうしようもなかった。

「まだ決まらないのか、……もう小一時間経つぞ」
 いくつか案が出ていて、その中で決めかねていると言うならまだいい。しかし、一つの案も出ていないのではそういいたくもなろうと言うものだ。仕方なく、自分で考えたものを提案しようとしたとき、桜が顔を上げて口を開いた。
「霧原誠也ってどうかな。ミストの霧に、はらっぱの原、誠実の誠に也って書いて。いいよね、お父さんたちも浮かんでないみたいだし」
「ああ、彼がいいなら」
 そう言われて、桜は少年のほうへと向き直り、いいよねというような瞳で微笑みかけた。最初こそ、その瞳を見つめていられたものの、すぐに見ていられなくなって顔をそらしてしまう。
「いいんじゃないか、いい名前だと思う」
 なんとか、同様に気づかれる前に間に合ったらしい。特に触れられることもなかった。
「ありがと、じゃあこれで決まりだね。誠也」
 見つめられただけにとどまらず、いきなりの呼び捨てにも、動揺する誠也だったが、桜のほうはまったく意に介していない。まぁ、自分で考えた名前に敬称をつけて呼ぶのもなにか違和感があるかと思いなおすと、動揺していた自分が馬鹿みたいで、誠也はただ、ああとだけ答えた。


 第一話・了

星空座談会 Re:1 [星瞬きし空の下で]

桜   そんなわけで、第一話が終わりました。
梓   旧版は名前だけは出てたのにぃ、ばっさりですかそうですか。
椿   ま、そんな惜しむほどのものじゃないけど、変更点は結構多いわね。
桜   そうだね、そこら辺についての話がこのあとあるそうだよ。
誠也 勢いで書いてる部分が多いからなあ。
椿   ですね。
誠也 俺とか、盛大にぶれてるからなあ……。
桜   まぁ、そのための修正がほとんどだからって、なんでこんな作者のフォローをしてるのかな。
梓   陰謀でしょ。
椿   ですね。
誠也 さてまあ、お約束はきっちりやっておきますかね。
桜   うん。

椿   めでたく、白樺家に居候することになった誠也。
梓   しかし、そこに待ち受けていたのは、出会いと別れにはじまる紙一重なシチュエーション
桜   そして、隆之と奏の用意した試練だった。
誠也 次回、『わかり……ました』ご期待ください

誠也 予告は変更なしなんだな。
梓   そりゃそうでしょ……。


作者の言い訳


星瞬きし空の下で 第二話 Aパート [星瞬きし空の下で]

第二話 わかり……ました


「上はなんて言ってきたの?」
 誠也の立場を確保するためには、上へ報告せざるを得ず、どういう判断が下されるか、気が気でない日々を白樺家は過ごしていた。
「ああ、とりあえずこのまま様子見しろとのことだ」
「そっか、よかった」
 桜はほっと胸をなでおろし、組合から送られてきた書簡に目を通す。記憶が戻った際に元の世界へと戻って行かないような環境づくりを、と書かれているところを見ると誠也の出自に関しては上も同意見らしい。とりあえず、本部に連れてこいと言われなかったことは幸いだった。恩も返さないうちに連れて行かれたのでは、引き止めた意味がない。
「まぁ、上も例の作戦が迫っているし、今はこんなことに構ってる暇はないんだろうな」
 どこぞで、大規模霊的災厄を起こそうとしている組織の拠点が発見されたとかで、攻略作戦が予定されている。その作戦には隆之と奏も参加が予定されていた。
「それもそうか。……ん、あれ? もしかして、当分誠也と二人っきり!?」
 この機会に組合はその組織を一網打尽にしたいらしく、末端の掃討まで含めるとかなり長期になる。何かあるとは思えないが、流石に二人きりはいろいろとまずいわけで……。
「そんなわけないだろう。そもそも、一人で監視なんかできるわけがない」
 確かにそうなのだが、監視役が別に来てくれるとしても、それは離れて見守るものだろうから二人きりなのは変わらない気がした。桜が訝しげな表情をしているのを尻目に隆之は更に続けた。
「まぁ、すぐに分かる。約束の時間はそろそろだからな」
「約束?」
 そういうのと時を同じくして、玄関のチャイムが鳴った。
「開いてますから、どうぞ」
 隆之は玄関に向かってそう声をかける。するとドアの向こうから、桜もよく知った顔が現れた。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第二話 Bパート [星瞬きし空の下で]

「梓、椿!?」
 知らないはずはない、桜の親友の二人だった。同じ組合のメンバーであり年も同じ二人とは、この世界に関るもの同士悩みを話し合ったりしたもので、深耶とはまた別の意味で頼りになる友達だった。しかし、そんな二人に監視を頼むというのも心苦しい、生活をのぞかれたいわけではないが、知らない人のほうが気は楽なように思えた。
「それでは、今日からお世話になります」
 しかし続いて椿からでた言葉は、意外なものだった。
「え? お世話になる……?」
「あれ、聞いてないの? 私たちも桜の家に居候する予定なんだけど?」
 そんな話は聞いていない、はっとして隆之のほうを振り返ると、隆之は先ほどよりもニヤついて桜を見ていた。
「よく考えろ、そんなガチガチに監視なんかしたら、誠也くんの居心地が悪いだろう」
 それはそうかもしれないが、そんなんでいいのだろうか……。それに二人きりではなくなったが、女の子が二人増えただけではあまり意味がない気もする。まぁ、桜も含めて三人ともおとなしくしているほど弱くもないのだが。
「でも、二人の家なら通えるんじゃないの?」
 二人の実家は、桜たち白樺家が管轄するエリアの両隣である。まぁ、通えない距離ではないのだが。
「通えなくはありませんが、一人になる時間があっては意味がないでしょう?」
 動転していたせいか、あからさまにへんなことを言ってしまった。今度はそれを聞いた梓が、ニヤニヤしながら訊いてくる。
「何? 二人っきりになりたいの?」
「そ、そんなわけ!!」
 誠也には迷惑をかけたから、その分お返しがしたいだけでそれ以外に意図はない。そのはずだ。
「さっきから聞いていればまったく、他人の俺が言うのもなんですがね、とりあえず上がってもらったらどうです?」
 騒ぎを聞きつけたのだろう、いつの間にか誠也がやってきていた。微妙に、脱力したような顔でそう言った。
「う、ごめんね梓、椿。あがってあがって」
 そう促して、一同居間へと向かった。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第二話 Cパート [星瞬きし空の下で]

「別に困りはしないけど、ただついてればいいっていうのは流石に、危機感足りないような」
 居間に移動した一同は、上からの通達の詳細に目を通す。意外にも監視を怠らないようにしさえすれば、特に行動制限はなし。それどころか、組合の一員としての行動も許可されるという。いくら忙しい状況である上、中央に戦力を集める分地方の守りは薄くなるとはいえ、状況を見れば怪しいといわざるを得ない相手にまで協力を求めるというのは聞いた事がない。拍子抜けしすぎて、桜は呆れ顔になっている。
「まぁ、俺と奏や君たち二人の両親がぬければこのあたりの戦力がかなり落ちるのは間違いないからな。ある程度仕方ないだろう」
「そうですよ、どこもかしこもこの状況なのは一緒ですし」
 実際、上に対して戦力の補充を求める声はあちこちからあがっているが、そんな余裕はどこにもないのが現状だ。桜たちもかなりハードな状況になることを覚悟していたので、思いがけず補充があったと思えば、それはそれで僥倖なのかもしれない。
「さて、揃ったところで誠也君にこれを渡しておこうか」
 そういって、隆之はスマートフォンを取り出す。
「いや、そんなそこまでしてもらうわけにはいきませんよ」
「気にしなくていいよ、上からの支給品だし、逆に持っててもらわないと困るものだから」
 桜たちも同じものを取り出してみせる。どうやら、本当にそうらしい。
「それに、今時これないとなにもできないでしょ」
 梓の言うとおり、多機能化の進んだ今、身分証や財布などもこれで管理されている。なしで暮らすのはほぼ無理である。これは更に組合員用にカスタマイズされているものだ。
「そうですか、それじゃ遠慮なく」
 誠也は受け取ると、さっそく一同とアドレスの交換を行う。これで今後支障はないだろう。
「さて、あとは3人の転入の手続きを済ませないとな。来月には出発しないといけないしな」
「すみません、お手数かけます」
 組合との関係で、組合員が動くにはいろいろ面倒な手続きが必要なのである。仕方ないことではあるのだが、流石に迷惑ばかりかけている気がした。
「いやいや、俺たちが出た後大変なのは君たちのほうだからな。このぐらいで気に病むことはないよ」
 申し訳なさそうな椿に隆之はそう笑いかけて、席を立つ。
「後のことは頼むよ、椿ちゃん」
 桜に頼むといわないところがなんともだが、まぁ椿が一番しっかりしているから仕方ないところだろうか。そういって居間を出ていったが、すぐに戻ってきて言った。
「ああそうそう、誠也君。今夜零時に、裏の谷下へ来てくれ」
「え、あ、はい」
「すまないな、頼む」
 誠也の返事にそう答えると、隆之は今度こそ居間を出て行った。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第二話 Dパート [星瞬きし空の下で]

「ねえ、誠也くんを呼び出してどうするつもり?」
 奏は、誠也との約束の場所へと向かう用意をする隆之に話しかける。
「出来ることはやっておきたい」
「そうね、誠也くんの実力は見ておきたいか。力不足なら特訓しなきゃだし」
 隆之はうなずく。
「で、そのためには一度手合わせしてみるのが一番ってこと?」
「そういうことだ」
 確かに時間もないことだから、それが手っ取り早いだろう。ただ一つ隆之に言うことがあるとすれば。
「私も一緒に、……かまわないよね」
 自分も共に手合わせしてみること、それだけ。
「心配なのは同じだもの」
「そうだな」
 そして、二人は同じ思いを胸に、刀と呪符をとった。

「この辺で待ってりゃいいのか」
 桜に場所を確かめてきたから、大体あっているはずなので、誠也はそこで木に寄りかかって待つことにする。隆之が考えているであろうことに多少の察しはつくのだが、正直なところ名前すら思い出せない状況では体が覚えてくれていることに期待するしかない。あまり覚えていないが、倒れる直前桜の前に現れたときには、それなりに闘えていたらしいので大丈夫だとは思うのだが。などと考えていると、背後からの殺気を感じとっさに飛びのいた次の瞬間、ついさっきまで寄りかかっていた木がばっさりと斬られ、その奥から隆之が姿を現した。
「何するんですか、いきなり」
 分かってはいても、そう訊いてしまう。温厚な隆之のことである、流石に初手からこう出るとは思っていなかった。
「分かってて訊いているんでしょう」
 背後から聞こえた奏の声とともに、今立っている地面の下から木々が伸び、誠也を捕らえようとする。ぎりぎりのところでなんとか避けて着地し、動きの止まった木のなるべくまっすぐな枝を折って、背後から呪符をかざして現れた奏の方へ、それを構えて答える。
「まあ、大体は」
「なら、いいじゃない。あなたの実力を私たちは見せてもらいたいの、そのためには、この方法が一番じゃない?」
 ここにいるということは、これから先命の危険もある闘いに身を投じていくということでもある。最低限、桜たち3人の足手まといにならない力は必要なのだから、無様に負けるわけにはいかなかった。ここにおいてもらう以上、できることは桜たちを手助けしていきたかったから。
「わかりました、全力でいきます!!」
 力強くそう答えて駆け出した。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第二話 Eパート [星瞬きし空の下で]

「頑張ってるじゃないの、攻め手には欠けてるけど」
 桜、梓、椿の三人は、誠也たちが戦っているところから少し離れた斜面で観戦していた。
「ええ、五分持たないと思いましたからね」
「あはは、そこまで誠也は弱くないよ。それに、まともな刀も呪符もないんだもん、攻め手に欠けるのは仕方ないよ」
 一度、一緒に戦っている桜でさえ予想外なほどに、誠也は善戦していた。正直、危ない場面も何回かはあった。だが桜には、隆之たちは力の面では手加減していても、技術の面では手加減しているようには見えない。だから、二人の攻撃を捌ききっている、そのこと自体はとてもすごいことだと思う。でも、一つだけとても小さく気のせいかもしれなかったが、引っかかることがあった。
「「「ねえ」」」
 引っかかることがあったのは、梓と椿も同じだったらしい。でも、三人が三人ともばっちりのタイミングで言い出してしまったことで、顔を見合わせて笑うしかなかった。そして、このときはそうすれば忘れてしまえるような、その程度のものだったのだが。

「くそ、打って出なかったら負ける」
 こういうことは体に染み付いているのだろう、なんとか動いてくれているがもうこれ以上捌くことは難しくなってきていた。いくら霊力をこめているとはいえ、所詮はただの木である。真剣相手に斬りあってもつわけがない。そんな中で出来ることは既になくなりつつあった。
 そんなことを考えながら、奏がかざす水の呪符から生み出される水柱を避けた、いや、避けたはずだった。
「御身の姿を氷となせ!」
 その声が聞こえた瞬間、誠也の左側を通り抜けていっている水柱が、その姿を氷柱に変えて襲い掛かる。
「ぐっ!」
 いきなりのことに反応しきれず、とっさに受けた左腕が切り裂かれ、鮮血がふきだす。
 だが、攻撃はそれだけに終わらず、隆之が背後へと回り込むのがわかった。もう、勝つためには仕掛けるしか残されていない。だから、隆之の方へせめてもの牽制に、もはや役に立たないであろう木の枝を投げると、一気に間合いを詰め、奏に仕掛けた。
「終わってくれぇぇ!」
 持てる霊力の全てを拳にこめて放つ。だが、奏はそれにも余裕を持って対応する。
「障壁を!」
 もうこのままいくことしか出来ない。だが、それが逆に良かった。
「えっ」
 展開した障壁を突き破り、誠也の拳が奏の頬をかすめ、そこが赤く滲む。しかし、結界を張る符による障壁を力技で叩き割ったせいで、誠也の右腕はあちこちが裂けて、出血していた。
「ぐ、がっ」
 そんなうめき声を上げると、誠也はそのまま倒れこんでしまった。

「負けたんだな」
 奏の治癒結界の中でようやく起き上がった誠也だったが、まだ体のあちこちが軋む感じがした。
「そうね。だけどまさか、あの結界を破られるとは思わなかったな」
 そう言ってくれるのはうれしかったが、期待には応えられなかった気がする。そう思い、頭を下げたときだった。
「まったく、いつまで暗い顔してんの」
「負けたから資格なしとか考えているんでしょうけど」
「大丈夫、次は勝てるように特訓すれば言いだけの話だよ」
 いつのまにか近くに来ていた三人の言葉に、奏もうなずいて言う。
「そうそう、十分よ。これからちょっとキツイかもしれないけどね?」
 そう言って奏は隣にいる隆之の肩をたたく。ものすごーく、いやーな笑顔だった。
「ああ」
 そこで、隆之は一呼吸おく。しかし、げんなりしている誠也の耳に届いた言葉には驚きを隠せなかった。
「だから、私の清月流をやってみる気はないか?」
 清月流、桜も口にしていた流派名、だが誠也にはそのときに聞いただけではないような気がした。つまりそれは、記憶の手がかりかもしれないということ。なら、確かめる必要があると思ったから。
「お願いします」
「ああ。そのかわり、しっかり桜たちを守ってやってくれ」
 こんなどこの誰とも知れない人間を、ここまで信頼してくれていることが本当にありがたかった。だから。
「わかり……ました」
 その思いに応えようと思った、全力で。

 それからの数日間はあっという間に過ぎ、その週があけると同時に隆之たちは東京へと向かった。
その機内で、奏は隆之に話しかけた。
「どうして、誠也くんに清月流を教えたの?」
「誠也くんの動きを見て、教えないことに意味はないと感じたからだ」
 気がつかなかったわけではない、だが確信があったわけでもない。
「そっか、でも大丈夫よね。きっと」
「そうだな」
 短い時間の中で出来ることはした。あとは祈ることしか出来なかった。

「それじゃあ、いこうか」
「ああ」
 こうして、真新しい制服に身を包んだ三人と桜は、新たなる生活の第一歩を踏み出した。


 第二話・了

星空座談会 Re:2 [星瞬きし空の下で]

桜   後半怒涛の更新だったね。
椿   ですね。スペイン~モナコの間は影も形もなくて、少々心配でしたが。
誠也 まぁ、連戦だったしモナコはお祭りだからな。
梓   フリー走行が木曜じゃなきゃ1回ぐらいあったんじゃない?
桜   かもね。
誠也 そうか? 作者のやつ、ヒュムノスネタ書きたくてしょうがなかったみたいだが……。
桜   ……うん、そうだったね。

桜   あ、そうそう作者からのお知らせがあるんだった。
椿   そうでしたね、わざわざする必要がないコトのように思えたので消し去ってました。
誠也 おいおい。まぁ、もったいぶる必要がないのはそうだけどな。
梓   いいから、さっさと済ませなさいよもう。
桜   「出番がなかったらかわいそうなので、登場したらもう参加させることにしました」
梓   何の話よ……。
春香 こういう話ですけど。
誠也 梓、おめーほんと何も聞いてねえな。
梓   春香、ここまでだとまだチョイ役だもん。
椿   文脈が繋がりませんが……。まぁ確かに、今一度挨拶したほうがいいかもしれません。
春香 一話冒頭でちょろっと出た、谷澤春香です。
桜   「名前考えたの2004年ですから!!」だそうです。
誠也 『剣と魔法と学園モノ。3』でそっくりなヒュム子が作れる某アイドルは関係ないのか。
梓   あいつはなんで、毎回そういうこと主張するのよ……。
春香 ネタのつもりなんですよ、スベってますけど。
誠也 だな、予告行くか……。
桜  う ん。

桜   桜のクラスへと編入した誠也たち
梓   彼らを待っていたのは、クラスメイトたちの手荒い歓迎だった?
椿   次回、『お前も鈍いな、幸せそうで結構なことじゃないか』ご期待下さい。

誠也 短いし今月中に終わるかもな。
春香 無理だと思いますけど。


作者の補足


星瞬きし空の下で 第三話 Aパート [星瞬きし空の下で]

第三話 お前も鈍いな、幸せそうで結構なことじゃないか


 転入になる三人と別れ、桜は一人月始めの全校朝礼に出席していた。
「えー、五月というのは新しくなった生活にも慣れてきて、油断が……」
 全国の長の例に漏れず、ここ明洋学園高等部の校長も話は長い。それも毎年聞くようなテンプレート的な話で、もはや誰も聞いていない。桜も適当に聞き流していたのだが、小さな声で聞き流せない話が聞こえてきた。
「まったく、この手の人間は。どうしても死人を出したいらしい」
 岩井慎吾。突拍子も無いことをよく言ったりもするが、その情報網と洞察力、統率能力だけは恐ろしいものを持った桜や深耶、春香と同じ2-Cのルーム長である。
「それは流石に……」
 まぁ、こういう行事で貧血とかになる人もいるわけで、トップのわりに配慮が足りないとは桜も思う。
「そんな人が、教員なんか選ぶわけないでしょうに」
 今度は深耶が呆れ顔でつっこみを入れる。いつもどおりのやりとりに、きっと深耶はいつもと同じように目を伏せているのだろう。だが、そんなことはお構いなしと言う感じで、慎吾は再び口を開いた。
「今朝入手したばかりの情報なのだが、今日俺たちのクラスに編入生が来るらしいぞ」
 いったいどこから仕入れてきた情報なのかはわからないが、相変わらず耳の早いことだとは思う。まあ隠す必要はないことだからいいのだが、とりあえず適当にあわせておくことにする。
「へえ、そうなんだ。男? 女?」
「さあ、そこまではわからん。いかんせん時間が無かったからな、特定できなかった。だが、各所から得た情報には統合が不可能な点がある。つまり、複数という可能性も否定できないな」
 それを聞いたとたん、深耶の声が訝しげなものに変わる。
「そりゃ、編入生は複数かもしれないけど、いくらなんでもうちのクラスに入るのは一人でしょう」
 そんなことは慎吾も当然わかっている。だが、どうにも引っかかる気がする。だから……。
「陰謀か……」
「そんなわけないでしょ」
 深耶は否定するが、間違っているわけではない。というより、むしろあたっているのだが。
「まあまあ、編入生が来るってことは間違いないんだろうし、すぐにわかるよ」
 それもそうね、と深耶は会話を切り上げ、慎吾もそれにならう。おまけに、これだけ長いこと会話していても、壇上の校長はようやく話をまとめに持っていくところだった。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第三話 Bパート [星瞬きし空の下で]

 一限の開始時間を十五分ほどオーバーした頃、桜たちはようやく教室へと帰ってきた。思いっきり押しているので、担任の小柴茜先生も一緒に戻ってきて、教壇へと立った。
「全く、押して欲しくないときに限って話長いんだから。じゃあ何故なのか知らないけど、この時期に編入生が三人もいるのよね。まあさっさと済ませることにしましょうか、入ってきなさい」
 促されて誠也たち三人が入ってくる。誠也のときは女子から、梓と椿のときは男子から大きな歓声が上がった。
「じゃあ、ぱぱっと自己紹介」
 一番、教卓に近いところにいた誠也が一歩踏み出して一礼した。
「霧原誠也です。よろしく」
 とても当たり障りの無い挨拶をする誠也だったが、記憶喪失では話せるなにかがあるわけでもないから仕方ない。それに、それだけでも大半の女子はノックアウトされてしまったらしかった。
「橘椿と申します。よろしくお願いします」
 そう言って、椿は優雅に一礼する。今度は、男子連中の番である。
「柊梓といいます。よろしく」
 梓は、別に素で挨拶しても受けると思うのだが、なぜかやたら猫をかぶっている。そのせいもあってかやたら場が盛り上がっていたのだが、先生はそれを一喝する。
「はいはい、静かにする。それじゃあ席は白樺の隣に追加してあるから適当に座って」
 三人はうなずくと席へと移動する。それを確認して先生は話し始めた。
「それじゃあ、連絡事項……」
 そんなわけで、とりあえず午前中は平穏に過ごせるらしかった。

「霧原君かっこいいよね!!」
「うんうん!!」
 というのが女子の会話で、
「なあ、お前はどっちが好みだ?」
「俺は断然、橘さんだな。というかお前はどうなんだよ」
 というのが男子の会話と言うわけである。
 もっとも、今までは所詮十分休憩で、そう多く時間があったわけではないから、なんとかやり過ごすことも出来た。だが、この後訪れる昼休みには総攻撃? となるに決まっているのだから逃げたくなるのも無理からぬ話である。
「仕方ないよね」
 そうつぶやきながら、ポケットに手を当てて、忍ばせてある振動を発生させる呪符に力を送る。やろうと思えば対象に共振現象を起こして破壊することも可能な代物だが、そんな使い方をするのはごく一部で、もっぱら相手の鼓膜を振動させて会話するのに用いられるものだ。それを使って、誠也たち三人に話しかけた。
―ねえ、このままだとお昼が大変なことになるから……、逃げよう? ―
 そう呼びかけた。
―授業中ですよ。なにかあったっていうならともかく、雑談に力を使わないでください―
―あーもー、かたいこと言わない!! 私は嫌だからね、囲まれてただけの昼休みなんて―
―確かに、取り囲まれてる間に休み時間が終わってしまうのは……な―
 誠也にまでそう言われては、どうにも椿は旗色が悪い。正論なのは椿のほうなのだから気の毒ではあるが。
―……はあ、わかりました。で、具体的にどうするんです―
 授業の終了と同時に逃げるにしても、そんなに広いわけではない校内では、どうしても逃走ルートが限定されてしまう。脚が速いだけでは逃げ切れない、振り切るにも多少は策が必要だ。
―えと、一度下りて一階を少し回って疲れさせてから、屋上まで駆け上がるっていうのはどうかな―
 確かに、全力疾走させられた上で、階段駆け上がろうという気概がある学生はそうはいない。たぶんあきらめて食堂のほうへでも行くだろう、昼休みの時間くらいは稼げると思えた。
―いいんじゃないか、それで―
―そうね、それ以上やるのもそれはそれで面倒だしね―
 椿はしぶしぶと言う感じだったが、それでもうなずいてくれた。
 そう話がまとまったとき、ちょうど授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
 キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン
「よし、続きは次回だ。俺としても四限は長引かせたくないからな。ルーム長、号令」
「起立、礼」
 次の瞬間予想通り、クラスメイトたちが一斉に振り向きターゲットを視界に納めようとするが、すでに誠也たち四人が廊下へと出て行くところだった。あわてて追いかけるクラスメイトたちが教室から出ると、階段を下りていく姿が見えた。そちらへ殺到していくクラスメイトたちを尻目に、余裕の笑みで残っている二人と、興味なさそうにしている一人がいた。
「どうやら、結論は同じのようだな」
「そうみたいね」
 深耶は慎吾を軽くあしらいながら、一人残っている春香に声をかけた。
「春香も行く?」
 春香は少し考えてから、うなずいて立ち上がった。
「さて、ではいくか。白樺め、そう簡単に俺の裏がかけると思うな」
 そういうと三人は、一路屋上を目指した。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第三話 Cパート [星瞬きし空の下で]

 四人は一気に駆け上がり屋上の扉を開く。しかし、開けた先では四人を追わなかった三人がすでに弁当を広げていた。げんなりする桜に慎吾は満足そうに言った。
「まだまだ甘いな、読み易すぎるぞ白樺」
 悔しいが、実際目の前に三人がいるのだから言い返せる訳もない。
「もういいよ、ゆっくり昼休み過ごせればいいんだし……」
 そう言いながら、桜は三人の所へ歩いていき、二人のやりとりがよくわかってない三人もそれに続いた。

 包みを開くと、本当においしそうな料理が並んでいる。誠也は、その一つを選び口へと運ぶ。その感想はただただ。
「旨いな、桜」
「ありがとう、誠也」
 今日の料理当番は桜、四人分の弁当も全て桜の手作り。この学園に限らず、どこでも行なわれている和やかな会話……だったのだが、今のこの状況では失言だったと言えるかもしれない。
「ちょっとまって、今日来たばかりの編入生たちと桜が、さも当たり前のように一緒に行動してるだけでも不自然なのに、いきなり下の名前で、それも呼び捨てなの」
 安心したせいで、口がすべってしまったらしい。
「え、ええと。その……」
 かなり言い訳しづらい状況に、桜は答えに詰まってしまう。
「しかも、弁当を作ってやる仲というわけか」
 慎吾は、一人ニヤつきながらこの状況を楽しんでいる。このままだと、クラスメイトたちにつかまったのと変わらなくなりそうだと思い、昨日必死に考えた設定でごまかすべく、椿が口を開いた。
「まあ、昔からよく遊んだりしましたからね」
 なるほどと言うように、深耶と春香はうなずいているが、慎吾だけは表情を変えない。この話が設定だということを看破しているのかもしれないが、椿は無視することにした。
「私たち、親同士が昔から親交があったもので、今回この学園に通うことになったので、桜のところを頼ったわけです。なのに、こちらへ来たとたんあんなことになってしまって」
 これで、そう思った。だが……。
「はあ、でもみなさんが寮に入られた様子は無いですし、それはつまり同棲中というわけですか?」
 その思わぬところからの攻撃に、梓と椿の顔にぱっと朱が散り、黙り込んでしまう。それをフォローすべく、今度は誠也が口を開いた。
「まあ、状況的にはそうなるかもしれないけどな。もうこいつらとは兄妹みたいなものだしな」
 そう言ったものの、三人の様子にはあまり変化が無い。そんな三人を見ていた慎吾は、誠也に耳打ちした。
「お前も鈍いな、幸せそうで結構なことじゃないか」
 だが、返ってきた答えは、流石の慎吾でも予想できないものだった。
「そういうものなのか」
 まあ、この場ではベストな答えだったのかもしれない。これ以上の追求は避わすことが出来たのだから。もっとも、これが後々響くことになろうとは、夢にも思わなかったのだが。


 第三話・了

星空座談会 Re:3 [星瞬きし空の下で]

梓   ここまではいいのよ!!
桜   まぁ確かに、ここまでは前やってたもんね。
椿   次が山場ですね。
誠也 今まで以上にばっさりいくつもりみたいだし、まぁなんとかなるだろ。
春香 だといいのですけど。

桜   今回はゲストに深耶が来てくれています。
梓   わー、ぱちぱち(投げやり)
深耶 この際、扱いの適当さには目をつぶるけど、どうしても訊きたいことがあるのよ!!
誠也 ん?
深耶 なんで私だけ名前変わってんの!!
椿   私たちに訊かれても困りますが。
深耶 作者いるんでしょ、作者!!
春香 今日は見てませんけど?
梓   逃げたな。まぁ、いつものことか。
椿   そうですね。
誠也 お前ら、外に気づいてやれよ……。
桜   『長い+変換しにくかったから♪』
深耶 そんな理由なのおおおおおおおお!!
椿   『深耶はわりとさくっとIMEが覚えてくれました』
梓   ま、深い理由なんて期待するだけ……。
深耶 登録すればいいでしょうが!!

桜   と言ったところで次回予告。
誠也 意外と容赦ないな。
桜   ん?
誠也 いや、いい。

桜   うららかな午後、学園に現れた異形に対処するために、大立ち回りをして見せた椿。
梓   無事に異形を撃破するも、そのことでいきなり担任の茜に疑われることになってしまう。
椿   次回『前回も言ったとおりです、この件に関しあなたに拒否する権利はありません』
春香 ご期待ください。


誠也 ここからは、ばっさりいってもバレないとか思ってそうだなあ。
梓   まぁ、いいんじゃない? 私メインの話が切られなきゃいいやー。
誠也 おいおい。

星瞬きし空の下で 第四話 Aパート [星瞬きし空の下で]

第四話 前回も言ったとおりです、この件に関しあなたに拒否する権利はありません


 編入から数日が過ぎ、四人も落ち着いた日々を送れるようになっていた。
「xを(a.b)とおく……」
 そんなわけで淡々と授業が行われており、今は担任である小柴先生の数学である。学業関連とくに隙のない椿はともかく、他三人はそれなりに四苦八苦している。なかでも誠也は、かなりの部分始めて聞くようなことらしく、数学に限らず大変そうである。そういうところも、やはり普通の生活をしていたわけではないように思えた。
「それじゃあこの問題の続きを、……」
 ……。
 そんなこんなで平和に過ぎていく日常を打ち破る、異形たちの出現を告げるザラっとした感覚が四人を襲った。
「……ッ!!」
 場所は屋上でかなりの数が出現したようだが、授業中の今はすぐに危険があるということはないだろう。とはいえ放置するわけにはいかない。そう判断した椿は立ち上がり、茜に向かって言い放った。
「先生、非常事態です。全校へ連絡して、生徒職員は校舎外へ避難を」
当然ながら、予想外の事態である。だから茜の反応も予想できるものだった。
「な、何を言ってるの!! あなたの一存でそんなことできるわけないでしょう!?」
 だから、それに対する答えも決まっている。
「先生言いたくはありませんが、この件に関しあなたに拒否する権利はありません。急いで!!」
 そういうと、桜たちも含めた四人は教室を出て行く。そのあまりの異常さに教室内は騒然としている。そんな中、今度は慎吾がさっと立ち上がって言った。
「従ったほうがいいと思いますよ、先生。突然こういうことを言われたのは初めてじゃないでしょう」
 確かに、思い当たる節はある。しかし……。
「わかったわよ!!」
 そういうと、茜は教室を出て行く。それを見つめながら、深耶は桜たちの無事を祈っていた。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第四話 Bパート [星瞬きし空の下で]

 四人が屋上へとたどり着くと、異形たちはすでに屋上を埋め尽くさんばかりに出現しており、中には結構な大物もいるようだった。四人は隠し場所から持ってきた、日本刀を抜いて異形たちと相対する。
「桜、とりあえず結界を」
「うん」
 桜はすぐに結界を展開する、これは外から結界内が見えないようにするためのもので、余程の緊急事態でない限り使用が義務付けられているものだ。別に椿も梓も使えないわけではないが、三人で行動するときの結界や符術といったサポートは、桜の担当というのが暗黙の了解だった。
「椿、いつもどおり大物は任せるわよ」
 それだけ言うと、梓はさっさと切り込んでいく。梓が使う三奈薙流は、速さ重視で対多数の戦闘を得意とする、切り込み隊長。椿の芳川流は、一撃の重みを重視し一対一での闘いを得意とするため、大物担当というわけだ。
「おい待てよ、梓!!」
 まだなにか、戦闘での立ち位置を決めかねている誠也も、梓を追いかけて斬りかかっていく。少し心配だった誠也の腕だが、隆之に手ほどきを受けたこともあって、この程度の相手なら問題なさそうだった。
「桜、私も行くから。誠也さんのサポートを」
「まかせて」
 そういうと椿も前へ出る。流石に気心知れたもので、タイミングを合わせて梓が大技を放って、椿のために道を作る。一直線に椿は大物に仕掛ける。それは亀のような姿をしており、四人には背を向けて襲い掛かると言うよりはなにか別の目的があるように見えた。
「これで!!」
 符術と組み合わせて刀に炎をまとわせ斬りつける。威力重視と言うだけあって、硬い甲羅にも大きくひびを入れる。柔らかい内側を狙って仕掛けようとしたが、いつの間にやら梓が後から
「お膳立てどうも~」
 椿の横手をさっと駆け抜けると、ひびに刀をつきたてそこを通じて霊力を叩き込む。威力で劣る三奈薙の切り札とも言える技である。柔らかい内側に叩き込んだこともあって、亀の後半身が吹き飛び崩れ落ちる。二人の連携であっさりと勝敗は決し、四人は残りの雑魚の掃討にうつった。
 ……。
 戦闘でぼろぼろになった屋上を専用の呪符で元に戻し、結界も解除する。あとは、何事もなかったように振舞うのみだが、先ほどの様子では相手は手ごわそうだった。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第四話 Cパート [星瞬きし空の下で]

 意外にも、茜は追及しなかった。
 普通に生活していれば、このようなことは幾度かはあったはずのことである。無論、茜とて初めてのことではなかったが、それを指示するのは常に自分よりも上の立場の人間だった。だから、自分には何かあったようには思えなくても従っていた。しかし今回のように、成人すらしていないような子供に命令されるようなことは初めてだったのだ。
 ……。
 もちろん、すぐにでも追及したい気持ちはあった。しかし、椿の言った『拒否する権利はない』その言葉が引っかかったのだ。もし彼女の言うことが本当なら、今までのよくわからない指示を出していた人間と彼女たちは同じ権限を持つことになる。それが確かなのかをまず、調べようと考えてあの場はこらえたのだ。
「……、これか」
 椿とそれについて行った三人のデータに目を通す。そこには確かに四人とも『特記事項』と書かれていた。
「何なのよ、これ」
 茜は、そこにカーソルを合わせて『特記事項』の内容を呼び出そうとするが
『ERROR:あなたの権限では閲覧できません』
「え!?」
 もう一度試すが結果は同じ。
 仕方なく、その『特記事項』が使われた際の対処を検索する。結果、表示されたのは『無条件に従うこと』とそれだけだった。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第四話 Dパート [星瞬きし空の下で]

 結局、茜は何も言ってこないまま週末を向かえていた。桜たち四人には『霊的な現象が発生しそれが危険だと判断した際には、退避命令などの必要な措置を発令することが出来る』そういう権限が与えられており、『特記事項』として明記されている。そのことは流石に茜も確認しているはずだ。それを見てどうするかは自身の判断だろうから、このまま黙るかもしれないしそうでないかもしれない。しかし、何もない展開はあまり考えられない気はしている。
「それじゃ、最後に実戦形式でやろうか」
 まぁ、どちらにしろこちらから藪蛇をつつくわけにもいかないので、こうして誠也の特訓をしていると言うわけだ。剣のほうは、隆之に手ほどきを受けたこともあってわりと様になっている。とはいえ、失くした過去にやっていたであろうからというのも、多分にあるわけではあるが。そんなわけで今日は、符術のほうを重点的にやっているのである。まぁ、この分野では梓と椿も桜に遠く及ばないので、一緒に特訓を受ける側なのがなんとも言えないが。
「私に符術だけで触れられたら合格。三人まとめてかかってきていいけど、結果はひとりひとりね」
「あんたの結界、破れる気がしないんだけど」
 梓が使う三奈薙流は、対多数を想定した霊力を直接放出して広域殲滅が可能な技が多く、符術に頼る場面が少ないので実は相当苦手としているのだ。そんな事情でげんなりして言う梓に、苦笑いしながら桜は言う。
「単純な防御結界は使わないようにするよ。符術を使った防御は教えときたいから使うけど」
「まぁそれなら何とかなるか」
 誠也と梓はあからさまだが、椿のほうも表情を見るとほっとしたようだ。そんな三人の希望を打ち砕くように桜は続けた。
「あ、こっちからも攻撃はするから仕掛ける前にやられないようにね?」
「分かってるわよ!!」
 梓はそう答えるが、彼女の速さをもってしても避け続けるのは容易ではない。
「では、始めましょうか」
 椿の言葉で、桜以外の三人は散る。それを見届けて、一度深呼吸をすると桜も手近な樹へと跳ぶ。そして
「いくよ!!」
 呪符を構えた。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第四話 Eパート [星瞬きし空の下で]

「水よ!!」
 桜は構えた呪符から大量の水を作り出し、あたり一面を押し流す。その声に反応して、三人は濁流から逃れるべく木々へと跳びあがる。やはり、符術に関しては桜には遠く及ばない。そう思いながらも、あたり一面を水で覆うというこれだけの攻撃を行ってきたのだから、本人も全く濡れていないというわけには行かないだろう。梓は、雷の属性を持つ呪符取り出し、足元の水面に向かって放つ。
「これで、合格もらい!!」
 水面を広がっていく電流が、追ってきた桜を捉えると思ったそのとき、桜の周りだけ何かに遮られるように素通りしてしまった。
「ええ!?」
 予想外の出来事に驚いて一瞬反応が遅れてしまった。桜は、梓のいる枝を、風を用いて切断してしまっていた。流石に、宙に浮いた状態の枝から跳ぶことはできない。梓は無様に落下した。
「はい、梓そこまでー」
 にっこり笑って言う桜。悔しそうな顔で見上げた梓の視界に一瞬、椿が見えた。どうやら梓が失敗すると踏んで、二人が闘っている隙を突こうとしたらしい。
「あ」
 背後を取った椿が、自分の得意とする炎で攻撃する。しかし、炎は桜を捉えられずまたしても遮られる。その一瞬の間に、桜も体勢を整え水を生み出して押し返す。剣での鍔迫り合いなら椿に分があるが、符術ではそうはいかない。本来ならば引くべきだろうが、椿は引かなかった。
「ここまでは計算のうち、今です!!」
 椿の背後の樹の上から、誠也が光をもって狙撃する。光速で迫る光に対する防御は本当に難しい。だから、威力がそこまで高くないことを鑑みて、多少の被弾には目をつぶり、動き回って狙いを定めさせないのがセオリーなのだが、この状況では桜は動けない。二人がもらったと思ったときに、倒れていたのは誠也のほうだった。
「もう一歩だね。なんか誠也も終わっちゃったし、こっちも終わらそうか」
「まだまだです、初手の大盤振る舞いが響いていつもより力がないですよ」
「そうだね、でもその代わり使える水は大量にあるんだよ」
 はっと、気付くがもう遅い。四方八方からの大量の水が椿に襲い掛かっていた。

「あー、痛てえ。なんで撃った俺が倒れてんだよ……」
「三人ともに言えるけど、符術で生み出したモノは更に操作しない限り物理法則に則って作用する。でも、普通には作り出せないようなものも作り出せるのが、符術なんだよ?」
 頭では分かっているが、実際の戦闘の場面ではどちらかの考え方に囚われてしまうことが多い。想像力と知識を常に織り交ぜて闘うのは、かなり難しい。
「誠也の光を反射して椿の炎を防御したのは、屈折率100%の細かい氷で全身守ってたから。梓の雷を防御したのは、私の近くだけ水を純水にしていたからだよ」
 流石に、符術が専門の母・奏に鍛えられただけはある。いつまでも、負けてばかりなのは問題なのだが、正直三人には勝てる気がしなかった。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第四話 Fパート [星瞬きし空の下で]

 束の間の週末も今日で終わる。茜は追及してこなかったとはいえ、ずっとしてこないとは言い切れないし、これからも前回のようなことは何度となくあるだろう。そうなれば最終的には追及してくるかもしれない、ということで四人は夕飯を食べながら話し合っていた。
「もう正直、話ちゃったほうが早いんじゃねえか? 絶対に秘密ってわけでもないんだし」
 誠也は筍に手を伸ばしながらそう言う。
「話して納得してくれて、口が堅そうならそれでもいいんだけどね……。小柴先生、勢いで言っちゃいそうだから」
 一番、茜を長く見ている桜にそう言われると立つ瀬がない。
「納得してくれそうにも見えないわ。しかし、県北のから揚げはやっぱりいい」
「確かにそうですね。先生には私たちの話を確かめようがないですし」
 実際問題、霊力に関する機密がそこまで厳重に管理されていないのは、話しても確かめようがないために妄想扱いされる場合が多いことが理由として挙げられる。つまり、深耶に話したときのように、親友だったりすれば信じてくれるだろうが、今回のようにいきなり命令されて従えなんて言われてしまったら、心証最悪で妄想話で煙に巻こうとしていると思われても仕方がない。
「だな。と言うか梓、褒めるなら桜が作ったものにしてやれよ……」
 誠也は呆れながらそういうが、梓は全く意に介していない。
「私の家は、県北に行く機会なんてそんなにないもの。まぁいいじゃない」
「いいよいいよ、面と向かって褒められてもこそばゆいし」
 桜は笑ってそういう。まぁ、付き合いも長いわけでそういうものかもしれないと誠也は思った。
「とにかく、先生には悪いけど話すわけにはいきませんね。この持久戦は辛そうですけど、諦めてくれるのを待ちましょう」
 そういう椿に三人はうなずき、あとは日曜の夜を楽しんだ。茜が早々に諦めてくれることを祈りながら。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第四話 Gパート [星瞬きし空の下で]

「単刀直入に聞くわ、あなたたち四人は何者なの?」
「お答えできません」
 放課後の空き教室で二人は対峙していた。
「答えなさい。まだ、あなたたちはそれが許される年じゃないわ」
 どちらが年長なのか分からないぐらい茜は苛立っており、椿も自分の反応がそれを助長しているのはわかっているが、それでも決めたことだからその通りに対応していくしかない。
「特記事項の内容は、ご理解いただいているはずですが」
 あくまで淡々と答える椿に、茜は更に詰め寄る。
「あなたは分かってるから納得できるでしょうね。でも、内容も知らされずにただ従えなんて言われて、逆の立場なら納得できるの!?」
 心情は理解できる、ただこの手の理不尽なことはいくらでもあるのだから、たまたま自分よりも立場の弱い相手がその対象だったことで強気になっているようにしか見えないのも、話せないと判断する理由なのにと椿は肩を落とした。
「確かに、私の対応もまずかったとは思いますが、今までも同様のことはあったはずですが」
「それは……」
 茜は言葉に詰まり沈黙が流れる。
 しかし、それを打ち破るザラっとした感覚が椿を襲った。
「先生、少し早いですが全校生徒を下校させてください。職員は退避を」
「あんた人の話を……」
 いよいよ気色ばんで茜は詰め寄る。それでも椿は、毅然として言い放った。
「前回も言ったとおりです、この件に関しあなたに拒否する権利はありません」


 つづく。

星瞬きし空の下で 第四話 Hパート [星瞬きし空の下で]

 椿の到着を確認すると、桜いつもどおり結界を展開した。
「今度の主は?」
 そうたずねる椿に、梓は答えずに指し示す。そこには強力な霊力を放つ大木が出現しており、校舎を破壊するつもりなのか枝や根を縦横に伸ばしていた。
「これは、どうするのがいいんだ。このサイズと成長速度じゃ少々傷つけても効果なさそうだし」
「生木だからねえ、燃やしちゃうってのも骨が折れそうよね」
「うーん、でもこの手のタイプって根とか残しちゃうとそこから再生したりするし……、大変だけど燃やしといたほうがいいかも」
といっても、あまり考えてばかりいるわけにもいかない。椿は、すぐに指示を出した。
「とりあえず、根を切ってそこから燃やしましょう。ダメなら一気に燃やす方向で」
「「「了解」」」
 大木は四人を直接攻撃してくるそぶりは見せておらず、取り巻きというべき他の異形もいないため、それぞれ狙いを定めた根へと散ろうとしたときだった。土地を護る大規模結界が急に力を失っていくの感じた。どうやら、結界そのものには問題がないものの、地脈からの霊力供給が断たれているようだった。今のところ局所的なものではあったが、護りを失ったことで地面から次々に異形たちが湧き上がってきているし、放置すればこの辺り一帯が危険だった。
「やっぱり、根から処理しないと」
 こうなってしまうと大木だけにかまっているわけにもいかない。しかし、地脈から吸い上げた霊力でぐんぐん生長している。
「桜、梓は異形たちをお願い。霧原さんは私と木の方を」
 桜はうなずくと同時に符術で道を開く。そこから椿と誠也は一気に間合いをつめる。二人も呪符を使って刀に炎をまとわせて攻撃するが、地脈からの霊力供給を受けている今、それだけでは歯が立たないようだった。根を切り落としても、すぐに代わりが生えてきていた。
「桜!! 向こうの援護もしてやって」
 桜はうなずくと、異形たちから距離をとって大木の方を攻撃する。
「光よ!!」
 大木の上に光が収束し、次の瞬間降り注ぐ。その光が消えた後の大木は、大してダメージを受けたようには見えない、むしろ元気になっているようにさえ見える。
「……もしかして、光合成?」
「あんた人に散々講釈たれといてそれなの!!」
 そこまで手加減したつもりはなかったのだが、大木が発する霊力との相殺で光合成で利用できる程度に軽減されてしまったようだ。次の瞬間、鈍い音が結界内に響く。どうやら生長した枝が結界にぶつかったようで、かなり余裕のないところまできてしまったようだ。
 ここまできたら生半可な攻撃では通用しない、椿は懐に忍ばせた特別な呪符に手をかける。だが、それを遮るように梓の唱言が聞こえた。
「数多の龍を統べし蒼き龍よ、我が三奈薙とともに在りし盟友よ、汝が力を我に。三奈薙流奥義、龍王蒼炎斬!!」
 とっさに、椿と誠也は飛び退く。梓が抜刀術にのせて放った蒼い炎は大木に直撃し、あっという間に焼き尽す。霊力を吸い上げる存在がきえたことによって、結界は力を取り戻し残った異形たちもすぐに殲滅された。
「やるならやるといってくれよ、危ねえなあ。俺はお前の技をすべて把握してるわけじゃねえんだぞ」
「わざわざ詠唱してやったでしょ!! あの程度避けれないやつはいらないっての」
 ぎゃーぎゃー言い合っている二人を尻目に桜は、あまり表情の晴れない椿に話しかける。椿も声をかけずに奥義を使ったことに一言言いたいのかと思ったが。
「椿のは、どうしても時間がかかるから……。梓の判断は正しいと思うよ」
 椿はうなずく。
「ううん、そうじゃなくてね」
 そういうと、椿は背を向ける。いつもと違う様子に、誠也は梓と言い合いを続けながらも、目は椿の後姿を追っていた。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第四話 Iパート [星瞬きし空の下で]

 夕食をいつも通り四人で済ませた後、抜け出した椿は敷戸の町を見渡せる高台から高等部の校舎を見つめていた。
「上手くできたとは言えないか」
 今日のことは、タイミングが悪かったとしか言いようがない面もある。とはいえ、あの言い方はなかったとも思う。
「隆之さんに任されたんだから、しっかりしないと」
 ……。
「あんまり、気負うんじゃねえよ」
 突然かけられた声の主を探して振り返ると、誠也がそこにいた。戦いの後の椿の様子が気になった誠也は、椿がいなくなったのに気づいて探しに出た。そして白樺家からも遠くないここで見つけたというわけだ。
「霧原さん……、いつからそこに?」
「しっかりしないと、ぐらいだから大して聞こえちゃいないけどな。大体察しはつくさ」
 意外に気のつくものだと思いながらも、自分の態度もあからさまで心配かけていたのかもしれない。
「故意に角を立てることはないとしても、責任もって処理してる俺たちが責められる事はないはずだろ」
「それはそうですけど、また今日も突き放すような言い方をしてしまって」
 誠也は、それで今日の椿の様子に納得したようだ。言葉を選ぶように少し間をおいて続けた。
「俺もあいつらもできることはするし、一人で気負う必要はないよ」
 まぁあの先生だから、また突っかかってくるだろうけどな。誠也は笑ってそう続けた。
「そうですね……。よろしくお願いします」
 多少は気が楽になった気がした。なにより、気にかけて探しに来てくれたことは嬉しかったのだから。
「まぁ、帰ろうぜ。あんまり遅くなったら、あいつらも心配するだろうしな」
「はい、誠也さん」
「お、おい椿お前!!」
 呼び方を変えてみた、気持ちを表すために。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第四話 Jパート [星瞬きし空の下で]

「ほう、流石に女相手にはやるものだな」
 この世の何処ともしれぬ深い闇の中、男の声が響く。口調の割には貫禄のようなものはあまりなく、そう年を重ねているというわけではないようではある。
「彼に限ってそんなことは。しかし、あの家に入り込んで取り入ることはできたようです」
 男の問いに答える声は女のようで、否定の中に何か特殊な感情が見え隠れするところを見ると、年のころは桜たちとそう変わらないだろうか。
「そうであっては貴様が困るか」
 実に面白そうに、男は笑う。普通なら反論するところだろうが、黙っているところをみると立場はわきまえているらしい。何もアクションがないことが面白くないようで、男はトーンを戻して続けた。
「まぁいい、監視を怠るなよ」
「承知しています」
 ……。
 それ以上報告することもなかったらしく、女のほうは礼を尽くして退出する。気配が遠くへ去ると、男は再び口を開いた。
「どうせ捨てる駒ならば、最大限役に立ってもらわねばな」
 そういうと、男の気配も消えてゆく。別の気配と入れ替わるように。


 第四話・了

星空座談会 Re:4 [星瞬きし空の下で]

誠也 長かったな!!
桜   ほんとだよねえ。前にやったの3ヶ月前だし。
椿   春クールはドラマ感想やってなかったですし。
春香 8~9月は通常更新だけでしたしね。
梓   無理やりネタひねり出してるのも、結構あるんだったら更新しなさいっての。
桜   まぁ、四話終了にこぎつけてよかったよね……。

梓   で、前回はゲストいたけど今回もいるの?
誠也 いないな。終盤まで、ほぼこのままの体制だしなあ。
桜   そうだね。その中で雑談しても大丈夫なのって、慎吾ぐらいしかいないし。
春香 まぁ、桜のご両親とかは差し支えないですけど、もう出番も……。
誠也 あんまりやるとネタばれだな……。
椿   ちなみに、レギュラーはもうこの五人なんですか。
桜   それが、こっちもあと二人追加みたいだよ。
梓   すでに収拾ついてないと思うんだけど。
桜   梓が心配とか、珍しいね。
梓   なっ!? 私は、収録が長引くのがいやなだけよ!!
誠也 これが、ツンデレのテンプレか……。
春香 そういう担当ですからね。

桜   何の変哲もない日常に、何者かの意図が見え隠れし始めた。
梓   その中で狙われた春香を守るため、桜は切り札を切る。
椿   二度と繰り返さないために……。
春香 次回、『私が決めたことだから』ご期待ください。


誠也 ちなみに、作者は最近ツンデレといったら『相棒』イタミンらしいな。
梓   何の話よ……。

星瞬きし空の下で 第五話 Aパート [星瞬きし空の下で]

第五話 私が決めたことだから


 桜は明洋学園都市の中心部にある商店街へ来ていた。桜の両親が東京へ向かって以来、白樺家の家事は交代制で本来は桜の当番ではないのだが、今日も行われた模擬戦で三人を伸してしまったため買い物ぐらいは代わろうということで訪れたのである。
「毎度」
 いつものように、八百屋の主人はおつりを渡す。スーパーもあるのだが、付き合いが長いので桜は商店街のほうを選んでいる。まぁ、ここの商店街は初等部の授業などのためにわざわざ用意されているもので、購買の延長上にある学園の施設なので、事実上潰れたりはしないのだが。
「さて、もうこれで揃ったかな」
 メモをチェックし、そう言ってうなずくと自宅のほうへと足を向ける。すると、商店街入り口に急ぎ足で入ってくる春香が見えた。
「あ、春香」
「え、ああ、桜」
 実のところ、桜と春香は飛びぬけて仲が良いわけではない。桜は仲良くしたいと思っているし、春香もおそらくは同じだと思うのだが、圧倒的な霊力の差に萎縮してしまっている部分があるのかもしれない。
「春香はなにを買いにきたの?」
「ちょっと郵便出しにね」
 春香は高等部校舎の南側にある寮住まいなので、郵便局へは商店街の中を通ったほうが近道ではある。急ぎの、春香は話を切り上げた。
「ごめん、ちょっと急ぐからもう行くね」
「うん、また明日」
 走っていく春香を見つめる桜は、虫の知らせというわけでもないが、なにか少し引っかかるものを感じていた。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第五話 Bパート [星瞬きし空の下で]

 あの深い闇の深淵で、今また密談が交わされていた。
「その後はどうなのだ」
 今度の会話も、前と同じ男と女のようであった。
「今のところ、どちらも動く様子はないようです。泳がされているということもないでしょう」
 敵の懐にもぐりこんでいるのだから、そうそううかつな動きをするわけにもいかない。それは分かっていたが、男にはそれ以外にも気にかかることがあるようだった。
「……そうか。まぁそれはいいが、予定のほうはどうなっている?」
「今のところ順調ですが、やはりあの三人の能力はかなりのものです。余裕のある今のうちに排除するべきと判断します」
 男もそんなことは十分理解している。そのための一手として送り込んだのだから。しかし、それが機能していない現状、何かしら次の一手を打つ必要があるのもまた事実だった。
「言うからには、手はあるのだろうな」
「はい」
 間髪いれずに女は答えると、部屋の壁に映像が浮かび上がる。どうやら、ただのプロジェクターのようだが、そこからの光がこの場の二人を照らし出す。しかし、そこに男の姿は見えなかった。
「この娘を使おうと思います」
 そこに映っていたのは、春香だった。
「霊力凝集体を打ち込んで、強制的に覚醒・暴走させます。三人の友人ですから、そうそう攻撃はできないはず、隙ができれば必ずそこをついてくれるはずです」
 霊力凝集体とは、所謂パワーストーンの類に霊力を大量に封入したもので、長期戦の際などに霊力のバッテリーとして使ったりするものである。しかし、霊力の低い人間に持たせたりすると、封入された霊力が個人の制御限界を超え、暴走することもある。女はそれを狙っているのだ。
「……まぁ、よかろう。やってみればいい」
 しばらく考えていたが結局、男の声はそう答える。現状では、ダメでもともとという事なのだろう。
「承知しました」
 そう言って女のほうは退出していく。気配が遠ざかると再び口を開いた。
「この娘はどこかで……」
 記憶をたどると、意外にすぐそばにその手がかりはあった。
「なるほど、これはどちらに転んでも後々面白いことになりそうだ」


 つづく。
前の30件 | - 星瞬きし空の下で ブログトップ