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星瞬きし空の下で 第五話 Cパート [星瞬きし空の下で]

 いつの日も、朝というものは慌しいものである。休日だって、そんな日もあるぐらいなのだから。しかし、今日はそんな朝を、更に慌しくする招かれざる客がいたのだ。
「ちっ、次から次に湧いてキリがない!!」
 言うまでもなく異形たちなのであるが、今日はピンポイントで白樺家に現れたのである。確かに、この明洋学園のある敷戸地区は結界がやたら消耗しやすく、常日頃から綻びが生じているような状態ではあるが、それは高等部校舎のあるあたりであり、そこから少し離れた白樺家のあるあたりは比較的安定している。少なくとも、今対峙しているような雑魚が結界を抜けて出てくるのが辛い程度には。
「なんかしたやつがいるわ」
 梓が手近な異形を斬り捨てながらそう言う。後の三人も同意見のようだが、誠也は何か気になることがあるようだった。
「これはどう見たって足止め、本命がどこにも……」
 本命たるであろう大型の異形などは、少なくともこの周囲には感じられない。かと言って、ここで四人を倒してしまおうと言うには、余りにも貧相だと言わざるを得ないだろう。どちらにしても、周辺の状況を確認する必要はありそうだと感じた椿は、すぐに行動に移す。
「三人とも、ここは私が引き受けるから周辺を確認してきて」
 三人がうなずくと、椿は三人がここから離れる隙を作るべく前に出る。突出した椿に攻撃が集中していく、その隙をついて三人は散っていった。

 誠也と梓は、東西に分かれて慎重に周囲を確認していく。だが桜は、脇目も振らずに春香の住む寮を目指して走った。先日、商店街であったときに感じた不安感のようなものが、今日のこのことを指しているのではないかと思えたからである。

 いつものように登校する生徒たちの列から離れ、白樺家のほうを目指した。春香に眠る霊力が危険だと言っていたから。しかし広めの公園に出たところで、それ以上先へ進むのは無理だと感じた。きっと桜たちは来てくれる、そのために今は時間を稼がなければならない。
「出てきなさい、私にはわかるんだから」
 その声に答えてくれたのかどうかはわからないが、周囲を取り囲むように異形たちが湧き上がる。自分に戦えるほどの霊力がないのは分かっているが、見えていれば多少は対処しやすいだろう。とはいえ、そう長く持つわけもない、今は桜たちの助けを祈るしかなかった。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第五話 Dパート [星瞬きし空の下で]

―助けてッ―
 春香がいると思われる寮へ向かって走っていた桜だったが、不意に春香の声が聞こえたような気がして、あたりの様子を探る。多少なりとも春香には霊力があるので、その感覚を頼りに位置を確かめる。どうやら、春香のほうも桜たちと合流しようとしたらしく、このまま寮のほうへ向かっていれば、確実に入れ違うところだった。桜は再び春香の元へと走り出した。

 チリン、チリンと春香のかばんに着けられた鈴が音をたてる。祖母が亡くなる前に、お守りとして渡されたもので術が施され魔除けの効果があるとのことだった。春香も、それがきちんと効果を発揮するものであるということぐらいはわかっていたが、実際にこの鈴のお世話になる日は来ないだろうと思っていた。しかし、それでも言いつけを守って持っていたのは、他人には見えない世界の出来事がやはり、怖かったからなのかもしれない。
「今度お墓参りに行ったときには、ありがとうって言わないと……」
 もちろん、余裕なんかないのだがそんなことでも考えていないと、異形たちを傷つけたりすることが、春香の霊力量では厳しい以上、気圧されて足が竦むようなことでもあれば、それは死ぬときなのだから。
「お願い、早く……」

「手加減をさせているとはいえ、少し甘く見すぎていたかしら」
 春香が奮闘している位置から、200mほど離れた地区の西側にある明洋学園中等部の校舎屋上に季節はずれな外套を纏った女が立っていた。声から察するに、あの闇の中で密談を交わしていた女のようである。
「まぁ、囲んで動けなくすればいいでしょう」
 そう言うと、外套の中から狙撃用と思われるライフルを取り出すと、紫色に禍々しく輝く鉱石で出来た弾丸を装填する、どうやらこれが話していた霊力凝集体のようだ。女が狙撃体勢に入るころには、異形たちが春香を民家の塀沿いに追い詰め、動きを封じていた。
「……」
 照星の中で春香の動きが完全に止まる。女はその瞬間を逃さずに引鉄を引き、すぐにその場を離れた。

 異形たちが一斉に動いてきたことで、追い詰められてしまっていた春香だったが、何か嫌な感じが迫ってくるのを感じて、春香は目をそらす。この状況では避ける事もままならないと感じたからである。どうにもならない、だがぐんぐん近づいてくるそれが春香に当たる直前、大きな金属音とともにそれは弾けた。
「春香!! 大丈夫!?」
 おそるおそる春香が目を開けると、そこには刀を振り抜いた桜がいて、自分はどこも傷ついていないようだった。どうやら、桜が叩き落してくれたらしかった。
「はあああああああ!!」
 春香が答えるよりも早く、桜は春香を囲む異形たちを斬り倒しにかかる。あっという間に、一角を倒すと盾となるように春香の前に立ちふさがった。
「ありがとう、無傷ってわけにはいかないけど生きてるよ」
 何とかそう答えると、桜はうなずいて周囲の異形たちに睨みを利かす。そして、
「遅くなってごめん、こういうときのための私たちなのにね。その代わり、もう指一本触れさせないから」


 つづく。

星瞬きし空の下で 第五話 Eパート [星瞬きし空の下で]

「はあああああああああ」
 周囲の異形たちを、桜は瞬く間に斬り伏せ、春香をかばいながら囲みを破る。春香には戦えること、それがとてもうらやましく感じられた。

 狙撃場所から離れた女にも、阻止されたことは分かっていたが、二の矢を番えることはしなかった。もう一度狙撃することは、位置を晒すことであるしなによりまた阻止されるだけであると感じたからである。計画は完全に失敗だったと言えるが、今まで常に四人一緒だったのを分断できているのだ。こうなれば、桜だけでも潰したいそう考えた女は、次の一手を打った。

 春香の手を引いても振り切れる、そう判断した桜が逃げに移ろうとしたときだった。一気に大量の異形たちが湧き上がり、二人を追い込み始める。桜の使う清月流剣術は、防御とカウンターに重きをおいた剣術で、梓の三奈薙流や椿の芳川流と違い、広範囲を攻撃する剣技が総じて威力不足である。
「あれをやるには……」
 手がないこともない、しかしそれには隙を作る必要がある。そのぐらいは威力不足とはいえ可能なのだが、剣技の特性上、春香も巻き込んでしまう。異形たちと戦える程度の霊力があれば、巻き込んで撃っても特に問題はないのだが、春香の霊力量では少々厳しい。護るためにここに来たのに、桜自身で傷つけてしまっては意味がない。かなり厳しいが、椿たち三人が着てくれることを信じて耐えるべきかとも考えたそのときだった。

『桜ちゃん、逃げるんだ……』

「くっ!!」
 桜の過去の一端が一瞬脳裏をかすめる。もう二度と、繰り返さないと誓ったあの光景が。
「桜っ、どうしたの大丈夫!?」
「う、うん。大丈夫」
 特に攻撃を受けたわけでもないのに、ふらついた桜のことを春香は心配してくれている。そんな春香とこのままの状態を長く続けるということは、同じことが再び起こりうる、そう思えた。となれば、もうなりふり構ってはいられない。桜はまた、春香の手を引いて異形たちと少し距離をとってから声をかけた。
「春香、私にしがみついて」
 自らの霊力の影響圏内にいてもらえば、この程度なら何とか耐えられるだろう。そう判断して、春香を呼ぶ。
「え、うん」
 体格はそう変わらない二人である、しがみついたりすれば相当動きづらい。そのことに戸惑った春香だったが、流石に何か考えがあるのだろう、すぐに言われたとおりにした。
「合図したら、離れてできるだけ下がって」
 桜の背中で、春香がうなずく。その動きを確認すると、桜は霊力を刀に疾らせ地面へ突き立てた。
「清月流、新月」
 地面を伝播した桜の霊力が、異形たちの足元を掬う。春香のほうは何とか大丈夫なようだ。この隙に桜は光の呪符を取り出し、春香に合図する。
「離れてっ!!」
 言われた春香は、桜から離れると脱兎ごとく走り出す。そしてすぐに桜は詠唱を開始する。
「光よ、今ここに集いて弓の形を成せ!!」
 呪符より生み出された光が集まり、桜の手の中に弓の形を成す。符術はより威力を引き出すには符ではなく、生み出された現象のほうに集中しなければならないのだが、人間何か対象がなければ集中することは意外と難しい。自分の得物が得意とする距離ならそれに纏わせればいいのだが、そうでない場合はそうもいかない。そこで、多くの人間は集中しやすい何かを作るのだが、桜の場合はそれが弓だった。別に弓を修めたことがあるわけではないが、銃なんかよりはよほど集中しやすく自分にあっていると感じていた。
「極意、月下美人!!」
 昼間さえ切り裂くほどの閃光が、異形たちのすべてを飲み込んでいく。程なく、光が消えるとそこには桜以外の何も立ってはいなかった。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第五話 Fパート [星瞬きし空の下で]

 結局その日は、後始末や春香を狙った何者かを探すことに時間を割くことになったが、何の痕跡も見つけられなかった。とりあえず、春香を護ることはできたが何の解決にもなっていないどころか、明らかに意思を持って行われたことである、その対象も狙いもわからないのは当然、不安を掻き立てる。そんなもやもやとした思いに囚われたままでは精神衛生上よくないと、そう思った桜は一人自宅の屋根へと登って、浮かぶ月を眺めていた。
「ここにいたのか」
 不意にかけられた声に振り向くと、かけられた梯子から、屋根の上に顔だけ出した誠也がいた。白樺家の屋根には、常に梯子がかけられている。符術を使えばそんなものがなくてもいいのだが、それでは情緒がないということらしい。
「うん、ちょっとね」
 答えると、桜はすぐに視線を空へと戻す。声に拒絶の色はないと判断した誠也は
「隣、いいかな」
「……うん」
 桜の声に、いつものふわっとした元気さはない。この夜の静寂に消え入りそうなほどに。
 沈黙が続く、不思議とそれは心地よく二人の間を流れていた。一日中、いつもの調子ではなかった桜。何がそうさせているのか、ここに来るまでは沢山訊こうと思っていた。しかし、今となってはそれはもうどうでもいい。桜が話してくれるのならば聞けばいいし、そうでないならそれでもいい。今はただ、この二人の間を無粋な言葉で壊したくはなかった。
 ……。
 得てしてそういう願いは、長くは通じないものであるらしかった。
「私、また護れなかったんだね。誰もこんな危険な世界に巻き込みたくはないのに」
 気持ちはわかる、しかしいくら霊力という強大な力をもっているとはいえ、自分たちは所詮人間である。100%何もかも護りきることなど出来はしない、本当はそれではだめなのかもしれないとしても、怪我させなければ護れたと、そういってもいいのではないかと。
「春香だって感謝してる、気にやむことはないって思ってるよね、だけど」
 そこで、桜は言葉を切る。そして視線を落として続ける。
「私が決めたことだから」
 そう言う、桜の瞳には強い意思がこめられていた。

「やっぱり、あの件のせいよね」
「でしょうね、似てましたから」
 居間で梓は窓から外を眺め、椿はなにやら資料に目を通しながらPCとにらめっこをしていた。
「まぁ、今は一人じゃないんですから大丈夫でしょう」
「そーね、私たちも頼りないけどあいつもいるし」
 梓が、振り向いてそう返すと、椿も手を止め梓のほうへ視線を向ける。こちらの沈黙は、気まずい雰囲気だったようで、椿はすぐに視線を戻す。
「ええ、少々羨ましいですが」
 後半は梓に聞こえないように小さくつぶやく。
「なんか言った?」
「いいえ、なにも」
 そういうと、手元の資料に判をつく。そこには春香の名前と特記事項の四文字が記されていた。


 第五話・了

星空座談会 Re:5 [星瞬きし空の下で]

桜   というわけで、第五話もめでたく終了しました。
誠也 まずはお約束の各ヒロイン回を回してるわけだが、今回はこれでよかったのか?
梓   確かに、以前のプロットと春香との関係が変わったせいで切らざるを得なかったからね。
椿   というか、切ってよかったのですか? 割と重要な伏線もあったかと思いますが。
梓   『なんとかします』とか外でフリップ持ってるぐらいなら、ちゃんと入れればいいものを。

誠也 で、今回は桜回なのか春香回なのかどっちだ?
春香 外の作者を見る限り、桜回みたいですよ。
梓   まぁ、春香は設定段階じゃヒロインじゃなかったしね。
桜   本当は、春香に関係ある別の人がヒロイン予定だったんだけど、作者が……。
誠也 『あれ? 春香のほうがかわいくね』とか、言い出したんだな……。
椿   ええ、あとはその人をヒロインにすると、あまりにも人死がなさ過ぎたというのもありますが。
春香 でも、こんなに何もかもバラしていいんですかね?
梓   いいんじゃないの? もともと裏話とか設定公開とかするコーナーだったはずだし。
誠也 だな。なんかそんなことを言っていた気がする、6年ぐらい前に。
梓   そーね、6年ぐらい前にね。
桜   じゃあ、少しは裏話でもしようか。
誠也 わかってるとは思うけど、4~6話は章立てタイプのギャルゲだとありがちな各ヒロイン回。
春香 目的は、ヒロインにスポットを当てることと奥義の披露ですね。
桜   私は諸事情で、奥義レベルの技になっていて、下手すると一度も撃たなかったりします。
椿   まぁ、この作品は長編は初ということで、あまりひねった話ではないので
梓   察しのいい方にはわかるんじゃない?
春香 改めてしている裏話のほうがしょぼくないですか?
桜   うん、そうかも……。予告いこっか。

桜   季節は梅雨の入り口、編入した三人も落ち着いてきた頃
椿   梓の前に、非情な死刑宣告が下される。
春香 次回『頑張れたんだからね!!』
梓   ご期待ください。……って、やっときた私の番なのに、なんなのよこれはー!!
誠也 まぁ、お前の回だからなあ……。


春香 ところで、私ってかわいいんですか?
誠也 作者に聞いてくれ……。

星瞬きし空の下で 第六話 Aパート [星瞬きし空の下で]

第六話 頑張れたんだからね!!


 ギィィィィ。
 屋上の扉が重苦しい音を立てて開き、そこから春香が姿を現す。顔だけ出し屋上を見渡して、そこに桜たち四人をみつけ歩み寄り、口を開いた。
「用って、この間のこと?」
「うん」
 覚悟を決めて春香に来てもらったのだが、やはりどうしても気が重い。できるならこのまま、元通りになればいいと思った、そうできることなら。
「春香、私たちの霊力の感触が変わったんじゃない?」
 口止めか何かだと思っていたのだろう、春香は意外そうな顔をする。そこで桜はさらに続ける。
「圧迫感とか威圧感みたいなものがなくなったんじゃない?」
「そういえば」
 本来なら、多少は霊力のある春香よりも、まったくない人間のほうがそういったことは感じているはずなのだが、霊力がないということは、それを感じる力もほぼないということ。そのため、普通の人は気にできないである。
「霊力は死に直面したときに、飛躍的に上がることがあるの」
「それは、分からないではないけど……」
 大事故から生還した人なんかが言う、危ないと思った瞬間回りがスローにみえるとかそういうのが、霊力の影響なのかもしれない。
「でも、そういうのって一時的なものじゃないの?」
 大半はそうですと椿が答える。そこで、今まで黙っていた梓が口を開いた
「普段出している霊力は1だけど、本当は10だせるポテンシャルを持っていたとき、何らかの理由で10出す機会があると1に戻ることはまずないのよ」
 つまり、春香には桜たちと肩を並べるだけの素質があったということらしい。それがいいことかどうかは分からないが。
「ということは、桜たちがやってることに私をスカウトするってことかな?」
 四人はうなずく、その瞳をみるに四人も複雑な心境なのだろう。それは理解できた。
「そっか」
 この間の件で護ってもらったことで、曲がりなりにも霊力があるにもかかわらず、戦えないということは悔しくて悲しかった。だから、戦える力を得たのならそれは喜ぶべきことかもしれない。ただ、ひとつ避けては通れない大きな問題があるが。
「ねえ、私どうやって戦えばいいのかな? なんにもできないんだけど……」
 前線に立って戦うことだけが戦い方ではないと思うが、不安もある新たな世界であるから、できれば桜たちと一緒に行動したかった。
「それは心配ないよ。一度、東京に行ってもらわないといけないから」
「え?」
 桜たちのスカウトを受けることと、東京に行くことが結びつかない。春香はせいぜいその町その町を、自発的に護っているのだと思っていたのだが。
「桜、流石にそれだけじゃ分からないでしょう。誰もが知ってることではないんですから」
「ごめん。私たちはみんな、組合っていう全国の霊的防衛を統括する組織に所属して、そこの戦略に基づいて戦ってるの」
 まぁよっぽどのことがない限り、人員配置の最適化ぐらいだけどねと梓は続ける。
「それで本部は、当然のごとく東京にあるんだけど、そこで今までまったくこの世界にかかわったことのない人のための研修があるからそれを受ければ、一通りのことはできるようにしてくれるから」
 俺、そんなもん受けてないんだが? あんたは監視中の身だし、戦う術はあるでしょうが!! などと若干、桜と椿の後ろでじゃれている誠也と梓が気になるが、そういうことなら安心だろう。しばらく離れなければならないのはやはり心細くはあるが。
「終わってもどってきたら、私たちもサポートするから」
「うん」
 そういうと椿がなにやらチケットを渡してくる。東京行きの飛行機のものらしい。
「身の回り品ぐらい持っていけば、あとは向こうで用意してくれてるから。明日の夕方の便だけど大丈夫ですか?」
 春香はうなずいて、チケットを受け取る。それは新たな世界への第一歩に感じられた。そして、この世界ならという思いがあった。
「ねえ、戻ったら手伝って欲しいことがあるんだけど、いいかな」
 春香のその言葉に、桜は意外そうな顔を見せる。
「別に、戻ってからじゃなくてもいいことなら今でもいいよ?」
 たぶん、そんな畏まらなくてもいいということだろうが、自分の手でという思いもあることであったから、春香は頭を振った。
「ううん、戻ってから言うよ」
 桜はまだ、不思議そうな顔をしていたが、それを制するように椿が答えた。
「分かりました、それでは帰ってこられたら」
「ありがとう、それじゃ行ってくるね」
 そういうと春香は、踵を返して去っていった。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第六話 Bパート [星瞬きし空の下で]

「できたぁ!!」
 春香が東京へと旅立ったその週の日曜日、何事もなくまったりとしていたい時間なのだが、いつになく必死な顔で料理をしている梓がいた。
「お願いします」
「うん」
「おう」
 本日五回目ということで、流石に少しつらそうな顔で桜と誠也は試食を始める。食べた二人の表情に特に変化がないところを見ると、再現できているとは言い難いようだ。
「どう?」
「まぁなんだ……、普通だよな。」
「そうだね」
 なぜこんなことをしているかといえば、そうそれは、先週の金曜日のことだった。

「さて、多数決で今年の学園祭の出し物は喫茶店ということで決定だな」
 壇上の慎吾が、黒板に書かれた正の字に目をやりながら言う。まぁ、無難なところだ。面倒といえば面倒だが、演劇をやるとかお化け屋敷を作るとかよりは、おそらく楽だろう。それに、多少はバックされる可能性もあるからオイシイと言えなくもない。
「では、来週の金曜にメニューの選考をしようと思う、それまでに考えておいてくれ。なんなら当日、試作品持ってきてくれてもかまわないぞ。特に、編入してきた柊嬢と橘嬢には期待しているッ!!」
 エスカレーター校なので、桜たち昔からの同級生なら慎吾のこれはいつも通り、ただの冗談なのだが付き合いの浅い梓は真に受けてしまったのである。

「もう一回聞くが、あの時どうやったか思い出せないのか?」
「いや、もう一回言うけど同じようにやってるつもりなんだけど」
 ……。
 梓が次の週作っていったのは、なんのことはないパンケーキに少しアレンジを入れたぐらいのものだったのだが、それがクラスメイトたちに絶賛されたのである。まぁ、それだけなら特に問題はない。むしろいいことなのだが、問題は梓が同じものをもう一度作れないということだった。
「やっぱりもう一回聞く……」
「何回聞かれても、わかんないものはわかんないの!!」
 別に、梓は料理ができないわけではない。レパートリーが多いわけではないが、ちゃんと家事のローテーションにも入っているし、凝り性で時間とお金をかけすぎてしまう椿に比べると、普段の生活という意味では逆にいいぐらいだろう。しかし、梓が料理すると1%ずつぐらいの確率で原因不明の何かが発生して、普通では考えられないぐらい美味しいものかまったく食べられないものが出来てしまう事がある。ゆえについた渾名が『ギャンブラーシェフ』というもので、これが今回発動してしまったのである。
「やっぱり謝ったほうが……」
 桜はそういうが、梓はぶんぶんと頭を振る。まぁ、元来見栄っ張りな梓の性格からしてそれはできない相談だろう。桜もそれは分かっているので、言ってみただけと続けた。
「うーん、何回か作ってればまた確変はするんだろうけど、一昨日と同じ味にはならないだろうし、なんとか思い出して再現するしかないよね」
 同じように料理して、また確変がおきて、また同じ味になるにはものすごい強運が必要になるだろう。なんとか再現する方向で、レシピを改変するしかなさそうである。
「俺も何とか思い出してみるが、とりあえず今日はここまでだな。流石にそろそろ後に響きそうだ」
「右に同じかも」
 また今度付き合うからと、席を立つ二人。二人とも料理は上手いので、当てにならないわけではないのだが、もう少し、広く意見を聞くべきのような気がした。
「仕方ない、深耶とかにも聞いてみよう」
 そんな独り言を言いながら、梓は一人片づけを始めた。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第六話 Cパート [星瞬きし空の下で]

「お兄ちゃん、遊びに来たよ」
 藍色の着物を着た少女は、扉の向こうへと呼びかけるが反応はない。さらにノックもしてみるが、やはり反応はない。もう何度目だろう、こうして呼びかけるのは。
「一ヵ月半もあれば戻れるって言ってたのに……。お兄ちゃん、大丈夫かな」
 そう言って少女は目を伏せる。また明日も来よう、明日には必ずいるはずだから。そうして、少女は重い足取りで歩き始めた。
「寂しいんだから……。早く帰ってきてよ、お兄ちゃん」


 つづく。

星瞬きし空の下で 第六話 Dパート [星瞬きし空の下で]

「それで俺と北崎嬢というわけか、柊嬢」
「あんたは呼んでないっての!!」
 どうも電話したタイミングが悪かったらしく、たまたま二人が一緒にいたそうで、いくら呼ばれたのは私だけだと言っても聞かなかったらしい。
「まぁ、こいつも舌はわりと確かだから……」
「そうだぞ、意見が多いに越したことはなかろう?」
 確かに、慎吾は選考会のときもそれなりにしっかりとした評価をしているなとは思ったのだが、それでもなぜかこいつには頼りたくないとそんな気持ちになる。だから、梓も憎まれ口を叩きながら二人に背を向けた。
「来たからには、真面目に評価しなさいよね!! あんたいっつも適当なんだから」
 流石に、慎吾も立場があるので、ああいう場ではそれなりに真面目にやるが、どーも今日のような場面だとはぐらかす姿しか想像できない。しかし、慎吾は意外にも心外そうな顔で梓が振り向くのを待っていた。
「相手が男ならそういうのもありだがな。一所懸命にやってる女の子に、そんな対応では罰が当たる。例えばそう、北崎嬢の鉄拳制裁とかが……」
 ガスッ!!
「一言多いってのよ、あんたは!!」
 仲がいいのか悪いのかよく分からないが、梓はなにか少し心に引っかかるものを感じながら、今のうちに作ってしまうかとキッチンへ向かった。

「どうかな?」
 流石に、出来上がる頃にはおさまって、こうして食べてもらっているわけだが……。
「うーん、もうちょっとチョコレート系の香りがしっかりしていたような?」
「クリームチーズ系のコクのようなものが、あったように思うが」
 確かに、どちらもあったことではあるがどちらもいれた覚えはなかったりする。まぁ、調和の難しい組み合わせでなかったことは喜ぶべきではあるのだが……。
「しかし、あのクリームを塗っていたわけではないパンケーキで、あの味わいは絶妙というか奇跡のバランスと言っていいだろうな」
 慎吾は珍しく大仰に感心して見せ、深耶の方もうんうんとうなずいている。確かに、慎吾の言うとおりのところで煮詰まっているのだ。生地にそういった要素を混ぜ込むことは出来る。しかしそれでは、あのときの味やコクには届かない。同じ見た目で同じ味は不可能に近いという現実に。
「これでも十分、美味しいんだけどなあ。金曜のを食べちゃったからねえ」
 まったく、因果なことである。今回のように、美味しくて困ったことは初めてだが、いつもと同じように作って食べられなかったことはそれなりにある。以前はなんとか、汚名返上しようと頑張ったこともあるが、最近はもう諦めていたから文句も言えないのだが。
「何とか頑張ってみるよ……。またお願いしてもいいかな」
「そうだな、霧原と違って手料理が食べられる機会などそうはないからな。喜んで付き合おう」
 慎吾は妙にいい笑顔でそういうが、隣の深耶の顔は心情が読みづらい。一瞬気にかかったが、核心にせまることを深耶が聞いてきた。
「でも、再現できないってどういうこと? 梓別に料理下手ってわけじゃないし、細かい分量とかメモするの忘れたとしても、少しずつ詰めていけばいいんじゃない?」
 まぁ、梓のギャンブラーぶりを知らなければ、そう思うのも無理はない。しかし、説明するにはそのことを話さなければ、説明できそうになかった。
「それはまぁ、一種才能だな。柊嬢」
「なっ」
 話した覚えなど当然ないし、桜たちがわざわざ言うこともないだろう。妙に鋭いところがあるやつだとは思っていたが、まさか気づいているなどとは思わなかった。
「そうそう、こだわる必要はないと思うぞ? 柊嬢の普段の力であれを超えればいい」
「え?」
 いつになく真剣にそう言ってくれていたのだが、結局すぐにいつもの調子に戻る。
「さて、そろそろお暇するとしようか北崎嬢」
「あ、うん」
 まぁ、あとは柊嬢次第だからなと深耶とともに席を立つ。二人を見送った梓は、再びキッチンへと向かった。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第六話 Eパート [星瞬きし空の下で]

「で、結局俺と」
 数日後、誠也は夕食のあと居間に残って梓に付き合っていた。
「とりあえず、これを食べてみてくれる?」
 出されたのは、チョコレートを混ぜ込んだパンケーキにクリームをのせたケーキだった。
「見た目は諦めたのか、まぁ仕方ないかもな」
「うん、まずは味の再現だけを目指してみたんだけど、どうかな? 改良してみましたって言えばいいわけだし」
 皿の上のそれを切り分けて口へ運ぶ。味の再現だけを目指したというだけあって、チョコレートの香りもクリームチーズのコクも、ほぼあのときのままだった。
「うん、問題ないと思うが、これで改良しましたはどうよ?」
 まぁ、そりゃあそうだろう。パンケーキ一枚で、あの味を実現していた前回に比べたら劣化もいいところである。
「分かってるわよ」
 といっても、ここで行き詰っているのは事実である。正直なところ、味の再現だけなら自分の舌だけでも問題はない。ここから先を思いつかないから、誠也を呼んだのである。
「ひょっとして、これをどうまとめればいいかとかそういう話なのか? それなら俺なんかより二人を呼んだほうがいいんじゃないか」
 誠也の舌と腕はそれなりに確かではあるのだが、適度に豪快な男の料理といったかんじで、レシピがどうのというよりは体が覚えているというほうが近い。こういう目的には合わないような気がしたからだ。
「そんなこともないって……。椿に頼んだら材料費と手間が限界突破するし、桜も無難すぎるし。だから私は、あんたの意外性に賭けるわ!!」
「いいのかそれで……」
 まぁ、期待されてるのは間違いないようなので、一応真剣に考えるがとっさには浮かばないものだ。おまけに、じっと見つめられたままでは余計無理である。仕方がないので時間稼ぎもかねて、話し変えてみた。
「ところで、なんで完全再現諦めたんだ?」
「ああ、二、三日前に深耶にもアドバイス頼んだんだけど慎吾のやつがくっついてきて、えらくカッコつけて『こだわらなくていい』とか言ってくれちゃって」
 まぁらしいといえば、らしいとかそんなことを思っていると。
「というか、あんた慎吾に例の件喋ったりしてないでしょうね!?」
「あれだけ、口止めされたんだ。喋ってねーよ」
「ならいいけど、あれは絶対気づかれてるわ……。何者なのよ、あいつ」
 正確なところはわからなかったとしても、再現できないという時点で何かおかしいのは、わかるだろうというのは言わないでおく。あとは、慎吾の得意なカマかけに引っかかっただけのような気もするのだが。
「慎吾といえば、あいつ深耶には対応違わない? あたしや椿への対応が違うのは付き合いが浅いからだと思うんだけど」
「そりゃ、好きな相手には多少変わるだろ」
「へ?」
 きょとんとした顔で、梓は誠也を見つめる。
「おいおい、あんなあからさまなの分からなかったのか? あれはどうみても照れ隠しだろ」
「男がそういうものって、本当なんだ……。フィクションの中だけだと思ってたわ」
 まぁ、そう思うのはわからないではない。状況の問題もあるが、自分が例えばこの三人の誰かを好きだったとして、からかいまくったりするかと言われればNOだから。
「しかし、慎吾のほうも驚いたけどけど、あんたもそういうことに疎いと思ってたから驚いたわ」
「うるせー」
 一ヶ月も、一つ屋根の下で女の子三人と暮らしてなにもないのだから、言われても仕方ない気はした。とはいえそれを認めたくはないわけだが、こういう方面の話でやりあってもおそらくは勝てないだろう。仕方なく話をもどそうとしたが、結局アイデアは何も浮かんでいないことに気づく。
「で、本題のほうだが、もうあれだ、最後まで付き合うからこの際、片っ端からケーキにしてみようぜ」
「ええ!?」


 つづく。

星瞬きし空の下で 第六話 Fパート [星瞬きし空の下で]

「よっし、あとは冷蔵庫にいれて待てばいいな?」
「うん、しかし夏場にやるもんじゃないわ。まぁ、本番夏なんだけど」
 いろいろ試した結果、ロールケーキということで落ち着いた。試作地獄が終わったとはいえ、完成までもう何回かは試食しなければならないだろう。それはもう桜や椿に任せようかなと思わないでもないが、最後まで付き合うといった手前、やるしかないとは思っている。
「さて、何して待つか……。もういい時間だしな」
 確かにもういい時間だが、だからといって冷やす時間が短くなるわけではない。だから少し。
「ねえ、ちょっと付き合わない?」

 梓が連れて行ったのは、学園都市と国道を繋ぐ大通りにかかる陸橋。そこで梓は欄干に寄りかかるようにして、眼下に広がる夜景を眺めている。まぁ、中心市街地方向でもないので大した夜景ではないが、それでもなんとなく惹かれるものがある気がした。
「……ありがとね」
 いつもの梓とは違う雰囲気がそこにはあった。
「気にしなくていい、普段お前たちに手間をかけさせてるのは俺だからな。俺で手伝えることなら何でも手伝うさ」
「そうかもしれないけど、ここまで手伝ってくれる人はそうそういないって、だから……。頑張れたんだからね!!」
 嬉しかったことは事実だから。
 たいしたことはしていない。それはまぁそうなのだが、ここであまり否定するのも梓に悪い気がして、誠也はそれ以上は言わなかった。
「そうか、役に立てたならよかった」
「うん」
 なんのことはないやり取りだったが、何故かそこに気恥ずかしさのようなものを感じて、梓に背を向けたまま夜空を見上げていた。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第六話 Gパート [星瞬きし空の下で]

「おかしい、あの状況で何のアクションもないなんて」
 件の女の声が暗い室内に響く。どうやら今は一人のようで、あのもう一人の気配は感じない。女の独り言はどうやら、春香を狙ったときのことのようだ。
 流石にあの場面で、桜が脇目も振らずに春香の下へ駆けつけることは予想できなかった。それは仕方のないことだろう。自らの存在を晒すという大きな失態だったが、咎められることがなかったことから、あの男もそういう判断なのだろうとは思う。
 しかし、あの作戦は春香をどうこうすることが目的だったわけではない。三人を始末できる隙を作れればよかったはずである。結果的に目論見からは外れたが、三人を分断することができたのだ。つまり各個撃破は可能だったはずで、それをしなかったということはなにか一抹の不安を感じる。
「確かめるしかないか、これ以上はあの人が……」
 そうはいっても、一応はここの雑務やらなんやらを仕切っている彼女が、ここをホイホイ離れるわけにはいかない。あまり気は進まないが、この手のコトにはうってつけの二人がいる。女は、ため息をつきながら電話を取った。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第六話 Hパート [星瞬きし空の下で]

 数日後、材料費や調理の手間などを見る最終的な選考会が、特別教室棟2Fにある家庭科室で行われていた。これが最後ということで、誠也も梓の手伝いに参加していた。とはいえ、そこまでデコレーションなどの凝ったものを作るわけでもないので、早々に手隙になった誠也はベランダに出て一息ついていた。
 後は仕上げぐらいのものなので、メニュー以外のことを話し合っている教室のほうにでも戻ろうかと思ったそのとき、いつものあの感覚に襲われた。
―誠也!!―
 梓の声に振り向くが、どうやら呪符を使ったようで、室内に特に変化はない。梓はこちらに来ようとしているようだが、せっかくここまで頑張ってきたのだから、失敗につながりそうな要因は排除したかった。
―こっちはまかせろ、ここで失敗なんてのは勘弁だからな―
―それは、そうだけど―
 刀もないのにと、誠也の瞳を見るがその瞳はいつになく自信たっぷりに、任せてくれといっているように見えた。
―ドジったら、ただじゃ済まさないからね―
 そういって、戻ることにした。

 とりあえず、ベランダのすぐ傍にある掃除用具入れから長箒を武器代わりに取り出す。教室に残っている桜や椿のほうでも気づいているはずだから、本当にまずいならなにかしら言ってくるだろう。今はまず、正体を探ることとここに邪魔を入れさせないようにすることが第一である。
「どこから……」
 ベランダからあたりを見渡すが、それらしき相手は見つからない。ならば上かと見上げた先にはこちらを目指して落下してくる巨大な火球が見えた。
「間の悪いときに!!」
 サイズやなんやからして、受け止めることは不可能だろう。空中で迎撃して叩き落すしかないと判断した誠也は、符術で重力制御して跳ぼうとしたが、その視界の端、3F渡り廊下の上に桜と椿が見えた。

「桜っ!!」
「任せて、大地の束縛より解き放て!!」
 桜の重力制御にあわせて、椿が跳ぶ。空中で呪符を取り出すと、刀に添えて喚んだ。
「煉獄の炎よ、ここに来たれ!! 芳川流奥義・紅天陣!!」
 椿は炎を纏った刀を一閃すると、そのまま着地体制に入る。しかし、火球はそのままでミスったかと思った次の瞬間、火球の内側からそれまでとは違う圧倒的な勢いの炎が巻き起こり、勢いを失って真下へと落下し中庭の噴水に落ちて消えた。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第六話 Iパート [星瞬きし空の下で]

「ふーん、あなたにしては思い切ったことするのね。そんなにあの男のことが心配?」
「……現状、何かおかしいのは事実よ。それを確かめないことには、今後どう動くにしてもその妨げになるわ」
 スマートフォンの向こうから聞こえて来る声はあの女のものである。すると今、電話の相手を挑発するこの女は、例のこういう仕事を得意とする二人の一人なのだろう。
「いつも通りに潜入の手配はするけど、あくまで状況が確認できればいいのだし、今後のことも考えてくれぐれも派手な行動は控えて頂戴」
 電話なので見えないのはわかっているだろうが、女ははいはいというように肩をすくめる。だがそれはほんの少しのことで、次の瞬間には邪悪な表情を浮かべて言い放った。
「もう遅いわね」
「なっ」
「悪いけど、こちらもあんたとは別口で駒の確保を命じられてるのよ。独断で動いてるあんたに止められる筋合いはないわ」

「何をしてるのよあの子達は……」
 例によって、異形の出現を感じた桜と椿が飛び出していったあとをつけた茜だったが、二人が渡り廊下に飛び出したところで姿を見失ってしまった。それは桜が不可視の結界を張ったからなのだが、それがわかったとしても視えなければ意味がない。結局、茜は地団太を踏むことしかできない。
 椿に二度目の“命令”をされてからも、茜は引き下がったわけではない。しかし、何かしらカードがなければ、またはぐらかされて終わりだろう。そう考えた茜はこうして、四人が行動を起こすタイミングを窺がっていたのである。とはいえ流石に、廊下からも見渡せる渡り廊下で見失うことなどありえない。となれば、桜たちが何かしたことになる。そうだとするなら、この後をつけて証拠を掴むというのは無理かもしれない。諦めたほうがいい、そんな言葉が脳裏をよぎる。そんな思いを見透かしたような言葉が背後から投げかけられた。
「諦める気ですか?」
 振り返ると一人の女生徒が、壁に寄りかかってこちらを見ていた。見覚えのない生徒ではあったが、流石に約四百人いるこの学校の生徒すべての顔と名前が一致するわけではない。間違いなくここの制服を着ている以上、特に疑うことはしなかった。とはいえ、このタイミングでこの言葉をかけてくるということは、あの四人について何かしら知っているということだろうか。意図を探ろうと茜は沈黙を守っていたが、どうやら向こうはだんまりを決め込むために来たわけではないようだった。
「あなたの知りたいこと、教えましょうか?」
 これはチャンスだろう。しかし、あの四人が堅く口を閉ざしていることを、何も知らない相手がいきなり教えてくれるという。流石に何も裏がないとは思えず茜が迷っていると、彼女は畳み掛けるようにこういった。
「あなたは何一つ間違ってはいない、そうでしょう?」
 その言葉は、的確に茜の心の中心を捉えていた。
「そうね、教えてくれないかしら」
 そう答えると、茜は彼女のほうへ歩み寄る。そしてそのまま姿を消した……。


 第六話・了

星空座談会 Re:6 [星瞬きし空の下で]

誠也 つい2週間前にやったばかりで、なんか違和感あるな。
梓   今回メインの私としては、ありがたい感じだけど?
春香 とはいえ、作者のほうは連続投稿で閲覧者ガクッと減ったらどうしようとか言ってましたが。
桜   あはは。
椿   まぁ、平均50~60人が半分になったからどうなんだって話しですけどね。
春香 so-netブログのアクセスランキングも、とっくの昔に圏外ですし。
椿   それは、日記・雑感のところに登録してるせいもあるんですけど。
桜   でもこう、節操ないとそこしかないんだよね……。
誠也 しかしこのブログ、作者の友人を除いたら、どういう方が見に来てくれているんだ?
梓   アクセス解析を見るに、感想を見に来る一見さんは結構いそうだけどね。
桜   普段は、ブックマークから来てる方が多いし、まさか残りは友人以外0?
春香 作者が教えた人数よりは多いと思いたいですが、自信ありませんね。

誠也 さてこれで、一通り各ヒロイン回が終わったな。
梓   なんで、私だけギャグ回なのよ……。
誠也 この六話だけ、プロット大幅変更してギャグ過ぎないようになったわけだが。
椿   露骨な欠点描写なくなっただけでも感謝しなさい?
桜   『ギャンブラー』の元設定は、98%酷いけどごく稀に超成功するだったからね。
春香 ありがちですね。
桜   おかげで、予告の死刑宣告が弱くなったりしたんだけどね……。
誠也 まぁ、日常描写をばっさりいってる所が多いからな。こういう回もありだろ。
梓   扱いが酷い……。これが、ギャグ要員か!?
桜   余計に酷くなったわけじゃないんだから喜ぼうよ……。
椿   設定こそあまり変わってませんけど、小柴先生なんて初期よりかなり小物化してますし。
春香 霊力関係の隠匿が適当になった弊害ですね。
誠也 春香絡みと並んで、設定変更が大きいところだからなあ。
桜   そのせいで、春香フラグほぼなかったりするし。少しは入れ込む予定っぽいけども。
誠也 これはもう春香寄りの選択肢を選んでいないってことで、スルーしてもらうしかないな。
梓   まぁ、細部まで煮詰めてから書きなさいってことね。
誠也 お前が、そうまとめるのかよ……。

桜   姿を消した小柴先生と、入れ替わるようにしてやってきた編入生
梓   限りなく怪しいものの、証拠がなく動くこともできない四人は
椿   ただ待つことしかできないのか。
誠也 次回『思い出さない方がいいことってのもあるかもしれない』
春香 ご期待ください。


誠也 ちなみに、個別記事閲覧数が一番多いのは、『F1_2011発売決定』なんだよな。
椿   ゲーム総合サイトでもみたほうがいい記事だと思うんですが……。

星瞬きし空の下で 第七話 Aパート [星瞬きし空の下で]

第七話 思い出さない方がいいことってのもあるかもしれない


「起立、礼、着席」
 慎吾の号令で朝のHRがはじまる、しかし今日も現れたのは副担任の好宮秋穂(このみやあきほ)だった。
 選考会の日に、茜が姿を消してから今日で一週間になる。その間、自宅に帰った形跡もなければ連絡も一切ない。無論すでに警察に届けられ、桜たちも手を尽くしてはいるのだが、未だに発見には至っていない。
「今日も、小柴先生はお休みです。みんな心配してるというのに、どこに行ったんでしょうね」
 人が存在した痕跡というものは、そう簡単に消せるものではない。物的証拠でさえそうなのだから、霊的な痕跡を消すことはなお無理な話である、そもそもその存在を知るものがあまりにも少ないのだから。しかし、今回は茜が廊下に出てから先の痕跡が巧妙に隠蔽されている。これはもう、茜が自分の足で学園から消えたのではなく、霊的なものを知る存在に連れ去られたと考えるべきだろう。だとすれば、白昼堂々人を連れさるような真似をした以上、絶対に追跡されない自信があるということだろう。事実、学園のある山を下りた辺りまではなんとか追跡できたものの人通りが増えその痕跡も増えたことで、それ以上の追跡はできなかった。
「今日からの、編入生を紹介します。入ってきて」
 秋穂に呼ばれた編入生が入ってきて軽く会釈をする、容姿は美しいといっても問題ないが無表情と言えばいいのだろうか、感情を読み取るのが難しそうな感じを受ける。とはいえ、このクラスにはいないタイプだからか、男子の方はそれなりに盛り上がっているようだ。
「勝った」
「梓……」
 そんなことを言っている間に、秋穂はさらさらと黒板に名前を書いていく。
「彼女は春越美夏さん、急なことですがみなさん仲良くしてくださいね」
「春越美夏です。よろしくお願いします」
 言葉ではそう言うものの、やはりその雰囲気は近寄りがたいものを感じる。だが、一人まったく違う何かを感じている人物がいた……。

「意外と盛り上がってるな」
 なんだかんだで、それなりのクラスメイトたちが美夏のところに集まっている。
「そうだね、でも今は」
「ああ、小柴先生のほうだな」
 桜の言葉に、誠也はすぐに話を戻す。尤も誠也とて意味もなく話を振ったわけではないのだが。
「小柴先生の失踪と入れ違うようにやってきた編入生、怪しいといえば怪しいですね」
 椿は誠也の意図に気づいたようで、そう話を誘導する。
「でも、彼女に霊力は感じませんけど」
 それは、四人とも感じているから確信が持てない。今回の事に関しては、霊力がないのならば疑っても仕方ないのだから。しかし、状況はやはり怪しいといわざるを得ない。
「気にかけておくしかないんじゃないの? ビンゴだとしても、泳がせておくほうが手がかりがつかめると思うけど」
 梓の言うとおりだろう。それはわかっているのだが、今の状況で待つというのはもどかしい限りとしか言いようがなかった。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第七話 Bパート [星瞬きし空の下で]

「はあああああああ!!」
 誠也が一人稽古しているのを、桜たち三人は少し離れて眺めていた。いつもは交代で付き合っているのだが、今日は珍しく全員揃っていた。以前に感じた既視感の正体が、稽古に付き合ううちに見えてきたから。お互いにそれを確かめるために。
「今はお父さんに習ったから清月の特色が強く出てるけど、習うより前から清月的な動きをしてた。それに、なんとなく三奈薙や芳川の要素もあったような」
 桜のその言葉に、梓も椿もやっぱりかというような表情を浮かべる。どうやら、二人も同じように感じていたようだ。しかし、三人が修める対魔剣術の三奈薙・清月・芳川流は霊力量や剣術センスなどを総合的に判断して継承者を決める実力主義とはいえ、一子相伝の剣であることは間違いない。普通に考えれば誠也が習得していることなどないはずなのだが、三人が三人とも感じているとなれば流石に、思い過ごしであるとは考えにくかった。
「私たちが前線で戦ってる以上、トレースされている可能性もなくはないんじゃないの」
 まぁ、昨日今日完成した剣術というわけでもないのだから、少しずつその動きや技といったものが剣を交える過程で盗まれて行っても不思議ではないのかもしれないが。
「そうだとしても、記憶が戻ったときにそうならないようにするのが今の私たちの仕事ですよ」
 そう言う椿に、二人もうなずいた。



 つづく。

星瞬きし空の下で 第七話 Cパート [星瞬きし空の下で]

「今日も帰ってない……」
 少女がここに通うようになって既に半月、少女が兄と慕う少年は未だに帰っては来ない。予定を半月過ぎても戻ってこないことなど今までは一度もなかった、少年の身に何かが起こっているであろうことは容易に想像できる。まして、特殊な世界に身を置いている以上、それが命にかかわることである可能性も格段に高い。しかし、それでも少女は毎日通い続ける、少年の強さを知っているから。
 それに、必ず帰ってきてもらわなければならない。まだ伝えていないことがある、それを伝えるために少女は祈り続ける。
「お兄ちゃんが無事でありますように」
 と。

-お兄ちゃん……-
 誠也は突然、そう呼ばれたような気がして振り返る。しかし、当然と言うべきかそこに誠也のことをそう呼びそうな人間などいない。急に立ち止まった誠也に、前を歩く桜たちも立ち止まって振り返る。
「どうかした?」
 そう言われるが、呼ばれたような気がしただけでそんなことはままあることだろう。誠也はすぐに再び歩き始める。
「いや呼ばれたような気がしたんだが、違ったみたいだ」
「空耳でしょ? まぁたまにはあるわよ」
 三人はさして気にも留めた様子もない。もちろんそれは誠也も大して変わらないが、呼ばれ方は少々気になった。
「そう呼ばれるような覚えはないんだけどな……」
 三人には聞こえないように、小声でそうつぶやく。尤も、それが確かなのはこの二ヶ月ほどの間だけでしかないのだが……。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第七話 Dパート [星瞬きし空の下で]

「連れ去られているのは間違いないから、生きてはいるんだろうけどなあ」
 あれからさらに三日が経っているが状況に変化はない。手に負えないと判断した椿は、“組合”の捜索班に要請をだしたものの件の攻略作戦を前に出払っていて、こちらへ来れるのは作戦終了後という返答だった。仕方なく、放課後の大半を割いて調査捜索を続けていたが、何の手がかりも得られていないのが現状だった。
「確かに私たちはあのとき、異形のほうに気をとられていました。ですけど、私たち以外の目も耳もあったんですよ? 誰も気づかなかったというのは」
 確かに放課後の時間帯を使った会議だったし、A組B組は出し物の関係上あのときは二年生のフロアにいなかった。しかし、それでもC組の約半分は教室に残っていたわけで、椿のいうことはもっともである。
「悲鳴をあげたりすれば気づくはずよねえ。うーん、慎吾のヤツが議長やってたのが痛いわ」
「うん、慎吾がフリーなら気づいてたかも……」
 関係のない慎吾にあまり頼るのもどうかとは思うのだが、こういうとき間違いなく頼りになるヤツではある。
「こう手がかりがないと、自分からついて言った可能性もあるんじゃないか?」
 それは、誰もの頭をよぎっていた可能性。しかし、口にできなかった可能性である。茜は四人の正体を知りたがっていたし、最近起こっている事件には何者かの意図が見え隠れすることからも、茜を連れ去った何者かは四人の正体ぐらいはわかっているだろう。そこらへんのことを教えるとでも言えば、茜は自分からついて行った可能性も考えられる。
「あまりそう思いたくはないのですが」
「確かにね。でも今は、“どう”連れ去られたかよりも“どうして”連れ去れたかのほうが重要じゃない?」
 それも梓の言う通りだろう、だがいくら四人と険悪な関係だったとはいえ、霊力のない茜を連れ去ったところで人質にするぐらいしか手はないように思える。それならば、何かしらの接触を既にしてきていなければおかしいはずなのだ。そこでどうしても行き詰ってしまい、四人の間に沈黙が流れる。
「春香と同じ手か?」
 不意に誠也がそう口にする。そして一気に続けた。
「春香が狙撃されたときの弾って霊力凝集体だったんだよな。それってつまり、春香を暴走させることで俺たちに斬らせようとしたんじゃないか? だけど、弾丸を斬り払われて失敗した上、結果的に霊力が覚醒して手の出しにくいところへ行かれてしまったから、次善の策として小柴先生を狙い、今度は邪魔されないように連れ去ったってことじゃないか?」
「それは……」
 確かに辻褄は合うようではある。しかし、もし成功していたとしても、暴走した春香があの場にいた桜を倒せるとは思えないし、春香そのものは桜たちに隙を作るための布石だとするなら、詰め手がないように思えた。
「考えたくはないけど、可能性は高いかもしれない。そして、もしそうなったら覚悟は決めないといけないね……」


 つづく。

星瞬きし空の下で 第七話 Eパート [星瞬きし空の下で]

「どうだ、使えそうか?」
 再び、あの闇の中。男のほうはいつもの声の主だが、女のほうはいつもの声ではない。しかし、その声はつい最近どこかで聞いた声である。
「完全にただの人間ですので」
「まぁ、それはそうだな。だが、もとよりあの女でやつらを倒すことを考えているわけではあるまい」
 どうやら女のほうは、いつもの女が以前動かそうとしてた相手らしい。独自に駒を用意した結果を報告しているようだ。
「ええ、適度に暴れてくれれば問題はありません。ですが、しばらくは霊力に慣らさなければな肉体の方が持ちません、すぐに動かすのは無理ですね」
「どちらにせよ、今は潜入しているのだ。奴などどちらでも構わないが、駒は多いにこしたことはない。その結果が出るまでは時間があるだろう」
 いつもの女に比べると、受け答えが雑で敬語も適当である。しかし、あまり気に留めてはいないところをみると、男のほうも案外適当なのかもしれない。
「現状はわかった、お前はそろそろ戻ってやれ。あれの調整は千里(せんり)に引き継がせる」
「では、お願いします。私はこれで」
 そう答えると、女は退出していく。そしていつものように気配は消えていった。

「こうなった以上は使うしかないけど」
 牢獄のような場所に、いつもの女の声が響く。ここに例の捕らえた駒がいるようで、そこへやってきたということは、彼女が先ほど千里と呼ばれた人間なのだろう。
「あんな騒ぎを起こせば潜入しづらくなるだけでしょうに」
 そんな愚痴をいいながら、千里は牢獄の奥の部屋に明かりを灯す。暗闇の中から浮かび上がってきたのは、見間違えるはずもない、小柴茜その人だった。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第七話 Fパート [星瞬きし空の下で]

「小柴先生、まだ見つからないの?」
 すでに二週間近く経過しているが、何の進展もない。流石に心配になったのだろう、桜たちの事情も知る深耶が聞きにきたというわけだ。
「うん、生きてはいると思うんだけど……」
 深耶には隠しても仕方ないので、ありのままを伝える、一応周りには聞こえない程度にはしておくが。まぁ、予想はついていたのだろう、深耶はため息をひとつついたぐらいで、それほど落胆したようには見えなかった。そして、励ましてくれる。
「そんなんじゃ、うまくいくものもいかないんだから。元気出す、元気」
 励ましてくれるのはありがたかったが、それがお気に召さないのがいたらしい。
「静かにしてよー」
 明日、槍でも降らしたいのか、珍しく休み時間に自習なんぞをしている梓に注意されてしまう。本当に珍しく、真面目にやっていたようだ。
「学期末近いんだから!!」
 ……。
 その場になんとも微妙な沈黙が流れる。
「ああ、そういえばそうだよね。そんなに不安はないけど、やっておいた方がいいかな」
 その反応に梓は意外そうな目を向ける。普段は赤点取るほど出来ないわけではないが、放課後の余裕がまったくないといっても過言ではない現状、こういう時間を有効活用というのも分かる話ではある。まして、桜以外は転校絡みで授業のペースなんかもかなり変わったりしているため、きちんと対策しておくに越したことはないのだろう。
そんなことを考えていると、こっちも真面目にやっていたらしい誠也が話しかけてくる。
「桜、悪いけどあとで勉強付き合ってくれないか」
「いいよ」
 チクッ
 梓は、その光景に胸の痛みを感じた。それは、最近時々感じる痛みで原因も分かってはいる。だからつい割り込んでしまった。
「私がやったげる」
 突然そう言い出した梓に、誠也は意外そうな表情をしている。そしてすぐに口を開いた。
「いや、お前も俺と一緒だろ。この忙しいのに椿に頼むのは気が引けるし」
「まぁ、そうだけど……」
 今の言い方からすると、誠也は特別意識をしているから桜に頼んでいるというわけではないようだ。だから、やはり悔しい思いはあるが素直に引き下がることにする。自分も椿も、少々忙しかろうが快く引き受けるだろうと思ったが。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第七話 Gパート [星瞬きし空の下で]

「桜、入るぞ」
 そうドアの向こうへ呼びかけた。
「いいよ、開いてるから入ってきて」
 返事を確認してから、誠也はドアを開けて自分の部屋から椅子を運び込んで、桜の隣に陣取る。
「そう言えば、何をやるのか聞いてなかったね、どうする?」
「初日にある数学を頼むわ。数学と英語だけはさっぱりなんだよな」
 桜はうなずいて、脇に置いてあった鞄から教科書とノートを取り出して広げ、誠也もそれに倣う。だが、桜はちょっと心配そうに訊いてきた。
「一応、確認するけどホントに私でいいの? 私もそんなに得意ってわけじゃないよ?」
 だが、誠也はゆっくりと頭を振った。
「そもそもやったことなさそうな俺よりは、確実にできるんだから心配するな。それに梓にも椿にも、今は余計な手間かけさせたくないしな。それに……」
 そこで誠也は言葉を濁す。
「それに?」
「いや、止めておく」
 確かにそこには、桜に頼みたいという思いはあった。なぜそうしたいのかということに、気づく余裕はまだ誠也にはなかったが。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第七話 Hパート [星瞬きし空の下で]

「なにもないし、思い過ごしだったんじゃないかな」
 あれからさらに数日、手がかりもなければ怪しいとにらんだ春越美夏にも動きはなく、ただ時間が過ぎるのみであった。美夏の監視に労力を割いている以上、茜の捜索のほうは手薄にならざるを得ない。まだ美夏が転校してきてから一週間と少し、こういったあまりにも手が回らない状況下でなければ、判断を下すのは早いと言わざるを得ないだろう。しかし、今は捜索のほうに集中したほうが、いいのではないかという思いが常に頭をよぎるのだ。
「確かにな」
 桜の言葉に、誠也も同調を見せる。確かな根拠があってのことではなかったことであるから、梓と椿も同意して、新たな行動計画について話を移そうとしたとき、深耶がやってきて声をかけてきた。
「おはよ」
「おはよ。深耶、昨日は大丈夫だった?」
 深耶にしては珍しく、昨日は夏風邪をこじらせたらしく欠席していたというわけだ。
「うん、私は大丈夫なんだけど……」
 深耶はそこで不自然に言葉を切る。そして、美夏の席のほうへと視線をめぐらせてから、再び話し始めた。
「昨日、春越さんきてた?」
「? きてたけど、それがどうかしたの?」
 四人は深耶の質問に首をかしげるが、深耶の方も梓の答えに首をかしげているようだった。
「うーん、それじゃ昨日の昼間に見た春越さんはなんだったんだろう……」
「「「「え!?」」」」
 深耶の言葉はまったく予想もしなかったもので、四人はあわてて聞き返す。
「詳しく聞かせて?」
 昨日、春越美夏はきちんと出席していたし、授業中抜け出していたなんてこともない。深耶の見た人間が春越美夏であるならば、大きな進展となりえるかもしれなかった。
「えっと、昨日の確かお昼前だったかな。たまたま目が覚めて、のどが渇いたから水をと思って部屋を出ようとしたんだけどね。そのとき、窓の外の前の道を走っていく人が見えて、なんとなく見覚えがあるような気がしたから通り過ぎるまで注目してみたら、春越さんだったのよね」
 そしてそのまま、彼女は商店街の方向へ走って行ったのだという。
「寝起きだったから、ちょっと自信ないし、学校にいたって言うなら見間違いかも。でも、それがどうかしたの?」
 妙に考え込んでいる四人に、深耶は怪訝な表情を浮かべるが、すぐに事情を察してくれたようで、それ以上は詮索せずに話を切り上げて、自分の席へと向かった。
「締め上げてみる?」
「そうしたいですけど、小柴先生誘拐に直接関わった証拠というわけじゃないですからね。現状では、監視を続行するしか」
 椿ももどかしいのだろう、この状況では考え方が間違っていなかったことだけで、大きな進展というには厳しいと言わざるを得ないのだから。
「うーん、北崎が見た方を探す方が手っ取り早いかもな」
「そうですね。指をくわえてみているわけにはいきませんから」
 椿のその言葉にうなずくと、四人は新たな行動計画とそのシフトを組み始めた。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第七話 Iパート [星瞬きし空の下で]

「はぁ、試験が終わったから次はこっちに力いれねえとなあ」
 深耶の見た方の美夏を探すことにはなったものの、それ以上の手がかりがあるわけではないので、できることと言えば結局見回りをするぐらいしかできない。そんな中で期末試験が始まってしまったので、椿は考慮して誠也をローテから外してくれていたが、その分今日からはしばらく連荘である。
「そうだね。早めに見つかるといいんだけど」
「まぁ、そうだな。だけど、出掛けの椿、近いうちに出るって妙に自信がありげだったな」
 桜は、出かける前の椿の様子を思い返す。言われてみれば確かに、自信があるような言い方だった。

「じゃあ、いってくるわ」
「お願いします。まぁ、心配しなくても遠からず決着すると思いますから」
 なぜそう言えるのか気になったが、先に外で待っている桜を待たせるわけにも行かず、誠也は家を出た。
 ……。
 ガチャンと音がして玄関の戸が閉まると、見計らったように梓が自分の部屋から出てくる。
「私も気になったんだけど、今のってどういうこと?」
 椿は、自室へ戻ると着替え始める。そして背後の梓に話し始めた。
「この間、誠也さんが話してたでしょう。春香が狙われた目的は私たちがやりにくい相手を用意して、躊躇いとかそういう隙をついて倒すことじゃないかって」
 そういえば、そんなことを言っていたように思う。しかし、それがどう繋がるのかがいまいち分からない。
「でも、春香はおよそ武術に関するようなことはやってなかったんですよ。いくら私たちがやりにくい相手だからって倒せるとは思えない」
 まぁ、それはそうだ。あのとき二人は異形たちにも囲まれていたようだが、一人ならそのぐらいで後れを取るようなことはないだろう。
「おそらく、春香を狙ったことの目的はそんなに外れてはいないはず。でも、本命は違う」
「まさか、誠也が?」
 椿はうなずき、続ける。
「そう。尤も今は、記憶を失ってるわけだし誠也さんが裏切り者ってわけじゃない。でも、向こうはそんなことは知らないわけだから、今日のような誠也さんと私たちの誰かという組み合わせなら……」
「そっか、実質一人と判断して仕掛けてくる!!」
 梓は、そう言うと自分も部屋へ戻って着替え始める。そこへ今度は逆に椿が背後から声をかけた。
「いつでも出られるようにして、待機しますよ」
「了解!!」

 なにごともなく見回りを続け、商店街の広場を通りがかったとき、誠也はなにかほんの少しの違和感を覚えた。それが殺気であると理解する前に、体が反応する。どこかに覚えがあったから。
「桜、上だっ!!」
 桜と何者かの間に割って入り、抜刀して受け止める。
「ちっ!!」
 不意打ちを仕掛けた何者かは、あっさりと引き下がり、羽織っていたフードつきの外套を脱ぎ捨てる。中から現れたのは
「ビンゴってわけだ」
「うん」


 つづく。

星瞬きし空の下で 第七話 Jパート [星瞬きし空の下で]

「やるじゃないの」
 今ので確実に桜はしとめられるはずだった。霊力は特殊な服と外套でもれないようにしているし、気配も消せていたはずである。しかし、それを察知された上、あろうことか誠也に阻止されてしまう。これ以上、芝居を続ける必要はないはずなのであるが……。とはいえ、潜入している方がそうするには、何かしら理由があるはずなので違和感はあるが、とりあえずそれにあわせることにする。
「あなたの目的は何?」
 そう訊ねる桜に対して、大げさに肩をすくめるしぐさをしながら答える。
「あなたたちの排除に決まってるでしょ? なにを今更」
 まぁそれはそうなのだろうが、そんなことが聞きたいのではない。
「『排除』、ね。当たり前だが、俺たちそのものが目的なわけはないか」
 誠也のその言葉に、違和感はさらに強くなる。なにか、潜入するための演技にしてはおかしい。
「おっと。まぁ、流石に馬鹿じゃないか」
「うん、だから出てきてくれないかな。春越美夏さん」
 桜は、声を張って周囲に呼びかける。すると、広場に植えられた木の陰から、目の前の少女に瓜二つの少女が現れた。
「なるほど、馬鹿じゃないですね」
 おそらくは、失敗したときの保険に隠れていたのだろう。しかし、それは美夏が一人という前提があればこそ、機能しうる手である。
「あなたが春越さんだよね」
「ええ、こっちは双子の妹の美冬。よく分かりましたね」
 確かに美夏は、ここ二週間ほどの間、転校してきて真面目に授業を受けていただけである。深耶に美冬が目撃されてさえいなければ、おそらく露見することはなかっただろう。
「白昼堂々動き回っててよく言うな」
 誠也のその言葉に、美夏は美冬の方を一瞥する。その視線に美冬ははぐらかすようにそっぽを向くが、美夏もそれ以上は何も言わず、ゆっくりと刀を抜いて構えた。
「まぁ、こうなった以上は実力で排除するしかありませんね」
「ああ、そうだな」
 お互いに臨戦態勢で睨み合う。しかし、これでも動く気配はない。流石におかしいと感じた美冬は、美夏に目配せし、符術を使って呼びかける。
―姉さん、あいついったいどうしたのよ―
―確かに、いくらなんでもおかしいわね。……仕方ない、私があたってみるからその間、あっちを抑えてなさい―
―分かった―
 お互いに自分の相手を見据えて、もう一度刀を握りなおす。
「来ないのなら、行きますよ」
 夜の闇の中に、街灯の明かりを受けた白刃が閃いた。


 つづく。
 

星瞬きし空の下で 第七話 Kパート [星瞬きし空の下で]

 甲高い音を響かせながら、桜は美冬と打ち合う。初めての相手との戦いに、様子を見ながら戦うというのはもちろんある。桜の使う清月流は、防御に重きを置く剣術であるから猶更そうではある。だがそれ以上に、桜は美冬の戦い方に違和感があった。
「どれほどのものかと思ったけど、たいしたことないじゃない!!」
「……」
 安い挑発とは思うが、これで一層違和感が強くなる。双子と聞けばどうしても、一人で生まれたものには理解しがたい繋がりを最大限に利用した連携戦闘を警戒してしまうし、先ほどの入れ替わりなんかを見るに、春越姉妹もそれを全く考慮に入れていないとは思えない。だから、誠也と美夏から引き離そうとしていることに違和感があるのだろう。ならば、ここですべきことはひとつである。
「行かせてもらいます」
 上段からの斬撃を受け止め、うまく力をいなしつつ上方へ大きく弾き返す。防戦を敷いていた桜の反転攻勢に、美冬は大きくバランスを崩して、後ろへ頭から倒れそうになる。流石にその程度でこけてしまうほど、美冬も素人ではないが、体勢を整える間に大きく隙ができてしまう。それを逃す桜ではない。
「清月流、十六夜!!」
 刀を胸の前で水平に構えて、両手で押し出す剣技。斬らないので本命には使い難いが、大きく弾き飛ばして間合いをとったり、攻撃を崩して防御をさせずに斬り倒すための布石として使われる。それにはもちろん柔よく剛を制すの要領で相手の力を利用するのだが、それでもやはり一定以上の腕力必要であり、桜のような女の子が同じ使い方をしても効果は薄い。そのため桜は、既にバランスを崩した相手への追撃として使うようにしている。尤も、この方法では後者の目的にはほぼ使えないのだが。
「くっ!!」
 一度目に弾かれてバランスを崩したときに、刀の重さで後ろへ引きずられないように、とっさに前へと戻したことが幸いして追撃を刀で受けることができたが、まともに受けて間合いをあけられてしまう。再び攻撃に移ろうとしたとき、既に桜は誠也や美夏の方へと走り出していた。

「春越!! てめえ、小柴先生をどこへやった!!」
 誠也は打ち合いながら、茜のことを問いただす。
「誰です、それは」
「この二週間、何度か名前は聞いてるはずだろうが!!」
「そうでしたね」
 当然といえば当然だが、まともに答える気はなさそうである。
「やっぱり、倒して聞き出すしかねえか」
「その程度で?」 
「悪かったな!!」
 まぁ、挑発の意味もあったのだが、その言葉には美夏の純粋な疑問もあった。ここまで、アクションがないとなると演技で手を抜いているとは思えないにもかかわらず、その剣にいつもの鋭さはなかったのだから。
「なら、これでどうだよ!!」
 突如として、斬撃の速度が上がる。それは、清月流の得意とする剣戟と剣戟の“つなぎ”の速さではなく、むしろ三奈薙流の得意とする純粋な斬撃の速さである。そして、受けたその斬撃は先ほどよりも明らかに重い。
「これは……」
 誠也の剣の急激な変化、それは美夏にとって確かに覚えのあるものだった。
「チッ!! 流石に、この程度じゃ厳しいか!!」
 不意に出た言葉、自分が言った言葉であるはずなのに、誠也は強烈な引っ掛かりを感じる。その結果、ほんの少しの隙を生じてしまう。
「……ぐッ!!?」
 美夏の剣が、誠也の左腕をとらえ切り裂き鮮血が噴出す。深手というほどでもないが、それでも傷を受けたことは、攻撃にも防御にも影響する。何とか追撃に備えようとした誠也だが、何故か美夏は追撃をしてこないどころか立ち尽くしている。理由はわからなかったが、これを幸いに誠也は間合いをあけようとしたが、流石にそこまでは許してくれない。
「そういうことなら!!」
 相手が女といえども、右腕だけでは突進からの斬撃を受けきるには心許ない。下がりながら受け流そうとしたとき、間に割り込む桜が見えた。
「誠也!!」
 強烈な金属音とともに、ぶつかり合った二人はお互いに弾かれるが、すぐに体勢を立て直して鍔迫り合いになる。
「美冬は何を!!」
 間を空けずに現れた美冬は、自分たちの方へと向かっている。だが、今の優先順位は既に違う。
「手負いの方を先に!!」
 一瞬だけ、美冬の表情に迷いが浮かぶが、すぐに誠也の方へと方向転換する。今度こそまずいと思った次の瞬間だった。
「三奈薙流、飛龍天昇!!」
 白樺家のある方角の、民家の屋根から跳んだ梓が放った霊力の奔流が、美冬と誠也の間に突き刺さる。出鼻をくじかれた美冬の前にはいつの間にか椿がいた。
「まだですよ」
 一閃。幸いにして、芳川の抜刀術はそう極限まで速くはなかったが、それを補う重さがある。防御は間に合ったが、美冬の刀はその衝撃で見事に叩き折られていた。
「さて、これで四対一みたいなもんだけど、どうする?」
 二人の援軍に、美夏も引いて距離を取り、商店街の建物の上で美冬と合流する。
「ここまでですね」
 そう言うと、美夏は刀を一閃し、四人の方へと衝撃波を打って闇の中へ消えていく。今度は逆に出鼻をくじかれる形になり、あわてて梓と椿が建物に上がったときには既に二人の姿は消えていた。

「悪い、俺のせいだな」
 戻ってきた梓と椿に、誠也は声をかける。
「いや、今回は時間を与えすぎましたからね、脱出法のひとつぐらい十分用意できたはずですから」
 確かにそうかもしれない、平静を装ってはいるがおそらくは判断ミスだと悔やんでいるのだろう。
「そっか。とりあえず、あの様子なら小柴先生の件は、あいつらの仕業だろうってのが分かっただけでも収穫か」
 桜たちに、自分が美夏を問いただしたときの反応を伝えて、そう続ける。まぁ、本当にそれしかなかったも同然だが、何もないよりはましだろう。
「よし、応急処置はこれでいいから、続きは戻りながらにしようか」
 桜と誠也は立ち上がり、四人は白樺家へと歩き出す。誠也はまだ痛む傷をさすりながら、この傷を受ける原因となったあの言葉の引っかかりについて考えていた。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第七話 Lパート [星瞬きし空の下で]

 商店街から白樺家まではゆっくり歩いても五分というところで、程なく四人は帰り着く。道中いろいろと今後について話してはみたが、いよいよ手がかりらしい手がかりがなくなってしまった以上、茜が出てきたときに奪還するしか手はない。結局は、待つことしかできないのだ。だから誠也は、今はそのことよりも自分のことについて、着いたら三人に話すべきか迷っているうちに。
「私、お風呂用意するから。一番、もらうわ」
 着くなり、梓はそういって浴室のほうへさっさと行ってしまう。椿も、玄関すぐ脇の自室の戸をあけると振り返って続ける。
「私ももう一度、上に応援を要請してみます。たぶん、ダメでしょうけど」
 ゆっくりと戸が閉められると、玄関には誠也と桜の二人だけが残される。タイミングを失った誠也は、桜の方を見る。しかし、桜も。
「椿に、コーヒーでも淹れようかな。こういうことまかせっきりだし」
 そして結局、誠也は上がりもせずに玄関に立ち尽くすことになってしまう。さっさと寝るなりなんなりして、忘れてしまおうかとも一瞬考えたが、とてもそんな気分にはなれない。だから、玄関を開けた。

「はぁ……」
 誠也は、白樺家の屋根の上で大きくそうため息をついた。今日のことで、美夏を初めて見たときのなんとも言い表せない感覚の正体がなんとなく分かった。だがそれを認めることは、今の自分の居場所を失くすことになるだろう。だからそれだけは、出来なかった。
「自分の居場所か。こんなことを思うってことは、前にいた場所をそうは思えないってことだよな」
 もうひとつ、大きなため息をついて屋根の上で寝転ぶ。すると、視線の端に桜の姿があった。
「ごめんね、気づかなかったわけじゃないんだけど」
 どうやら、誠也の様子に気づいてきてくれたらしかった。
「いや」
 この場はごまかしてしまおうかとも思った。だが、桜には話しておきたいとそう思う自分がいた。
「話したくないことなら、話さなくてもいいんだよ。私も無理に訊こうとは思わないから」
 そう言って誠也の隣に座って、一緒に星空を見上げる。
「綺麗だね」
 小さな不安なら、こうして何気ない会話をしていれば消えてしまうのだろう。だが、どうもそれですむ問題ではなさそうだった。
「なあ、桜」
 真剣な表情で桜のほうへと視線を向ける。
「うん」
 桜の視線は夜空の星を見つめたままだったが、この状況で見つめ合っても気恥ずかしい。桜の性格だから、気遣ってくれているのか図りかねたが、まぁありがたいのだからいいだろうと思う。だが、この話をするということは、この雰囲気を壊すことになるだろう。それだけが残念に思えた。
「俺さ、春越が編入してきたとき、あいつに何か懐かしさみたいなものを感じたんだ」
 空気が、変わったような気がした。だが、だからといってここで止めるわけにはいかない。
「今日、春越と戦ってるときには、あいつのことを俺は“流石”だって言った。それってつまり、あいつを以前から知っていたから“流石”なんだと思う」
 もちろんそれは、自分が桜たちの敵であるということとはギリギリだがイコールではない。しかし、それはおそらくは逃げだろうと感じていた。
「直接戦ったことはないんだと思う。あれば、初めて会ったときに気づいてるはずだからな。だけど、俺はお前たちの仲間とは、……いや、表の世界と戦っていたのかもしれない」
 覚悟はしていたはずだった。だが、それはおそらく桜にとって一番、聞きたくない言葉だっただろう。
「思い出さないほうがいいことってのもあるかもしれない」
 誠也が思い出さなければ、いつまでもこうしてみんなで一緒にいられる。今の状況なら、遠からず監視対象からも外れ、正式に組合の一員ということになるだろう。桜はそれを一番に願っている。だが、春越姉妹が現れたことによって、誠也は失くした過去を思い出し始めている。現在のこの時が壊れる、それだけは絶対に嫌だ。だから。
「どんなことがあっても、みんな一緒にいようね」
 それは約束で、そして宣言だったのかもしれない。


 第七話・了

星空座談会 Re:7 [星瞬きし空の下で]

桜   うーん、パート分けが多かったから長かったね。
誠也 そーだなあ、作者も場面転換の多さは今後の課題って言ってたぐらいだしな。
春香 敵のパートが入ってきた分、仕方ないところもない訳ではないですが。
椿   日数経過による焦燥感のような描写を、という意図も分かりますけど。
梓   ま、F~Gパートとかは一回でやっても問題なかったわ。
誠也 だよなあ……。F1始まるからもっと長丁場だよなあ。

誠也 で、今回のしょーもない裏話はなんなんだ?
桜   旧版よりもだいぶ話が進んだし、キャラも増えてきたから名前の由来とイメージについて。
春香 まずはおさらいですね。基本は、源氏物語でしたっけ。
梓   らしーわね。私は明石ってことだけど、キャラはむしろ朧月夜とかそっちよね。
桜   あはは。
誠也 俺は夕霧で、桜は紫の上、椿は花散里だったか?
椿   私も、あまり花散里のイメージないですけどね。確かに橘ですけど。
春香 この辺はおさらいですね。それで私は?
桜   えーと、『以前お話した、ヒロイン格上げの件もあって由来なし』だって
春香 ……。
梓   ……元気出しなさいよ?
春香 私だけあまりにも普通なんで、こんなことだろうとは思ってましたが……。
桜   あ、続きあった。
椿   えーっと、『ただ、後付ですがキャラ的には宇治の大君かなとか思ってます』か。
誠也 結構なネタバレのような気がするんだが。
椿   確かに。
梓   慎吾や深耶はイメージも由来もなかったり。とりあえず、親友キャラはいるだろうと。
誠也 というか、慎吾は杉○で深耶は○子、こ○り要素もあるかな……。
桜   それをぶっちゃけちゃダメーッ!!
春香 小柴先生も、まぁこの手の話にこの手のキャラはつきものですしってところですか?
誠也 正解。
梓   じゃあ、好宮先生も?
誠也 いや、あの人は秋好中宮だ。名前はモロにアナグラムだしな。
桜   アナグラムまでは気づこうよ、梓。
誠也 なんで秋好中宮か、というのはこれまた結構なネタバレなので言えないんだが。
椿   ですけど先生は、その目的のためには朝顔とかの方がよりよかったのでは……?
桜   まぁ、そうかもしれないね。
誠也 じゃあ、ラストは春越姉妹なんだが……。
梓   所謂、双子的ネーミングなんじゃないの?
誠也 正解。双子といえば同じ字を両方に入れたり、名前でしりとりしたりと相場が決まってる。
春香 確かに多いのは間違いないですけど。
誠也 今回みたいな潜入したりするときに使う名前なんで、遊んでつけたという設定。
椿   なるほど。
誠也 だから、美冬は春越姓ではなく、秋越姓だったりするんだよな。
梓   まぁ、今回出なかったから、もう最後まで本編じゃ出ないんだろうけどね、その設定。
桜   だよねえ。ま、次回予告いこうか。

椿   訪れた夏休み、しかし学園は祭りの準備になんだかんだで忙しい毎日。
春香 そんな中、春越姉妹によって、ついに誠也の現状がバレてしまう。
梓   結果、これを好機と、誠也の奪還作戦が発動される。
桜   次回、『あなたは何も感じなくていい』ご期待ください!!
誠也 いよいよか、八・九話はテンポよく行きたいところだな。
桜   そーだね!!


誠也 作者が、創作仲間にもっと学園成分多目かと思ってたといわれていたな。
梓   だから、日常描写を削りすぎだとあれほどー。

星瞬きし空の下で 第八話 Aパート [星瞬きし空の下で]

第八話 あなたは何も感じなくていい


「美夏の報告によれば、奴は記憶喪失らしいな」
「はい」
 今回の声の主は千里のようだ。
「演技ではないのか?」
「はい。美夏の報告によれば、手加減などは感じられなかったそうです」
 男の声の主は視線を少し下げるが、すぐに顔をあげて続ける。
「原因は?」
「そこまでは流石に……」
「そうか」
 今回の命を受けて、ここを発った時にはなんともなかった。潜入しやすくするための演出として、二人で少しやりあったりはしたが、その程度でどうこうなるほどヤワではないはずだと思う。
「……連れ戻せ」
 確かに、これ以上いさせても意味はないだろう。何とか奪還して、記憶を取り戻してもらうしかない。
「奴が当てにならん以上、少々予定は狂うが小柴とか言ったな、あの駒を使っていい、何としても連れ戻せ」
「承知しました」
 千里は、答えると踵を返して部屋を出ていく。その足取りはどこか軽く見えた。出ていくのを見届けた声の主は、不敵な笑みを浮かべる。
「奴は役に立たんが、奴そのものは惜しい。これは、風が吹いてきたかもしれんな」
 そして、大きく笑うといつものように闇の中へと消えていった。


 つづく。

星瞬きし空の下で 第八話 Bパート [星瞬きし空の下で]

 春越姉妹との戦いから二週間ほどが過ぎ、夏休みを迎えていた。明洋学園には補習の類はないが、その分学園の上から下まで、すべて合同で行われる学園祭の『盛夏祭』があるため、なんだかんだで出なければならないことは多い。今日は、誠也の担当する仕事はなかったが、暇なので自分も行こうかと考えていると、珍しく電話が鳴った。
「はい、もしもし白樺ですが」
「あ、霧原さん?」
 受話器の向こうから聞こえたのは、東京へ研修に行っている春香の声だった。
「ん、谷澤か。どうしたんだ」
「えと、研修もそろそろ終わるから、戻りの連絡をしておこうと思って」
「そうか、ちょっと待ってくれ」
 誠也は書くものを取りだして、カレンダーの前に移動する。
「OK」
「今週末の土曜日に終わるから、遅くなると思うけど最終には何とか間に合いそうだからそれで帰るね」
 しかし、最終便となるとこっちにつくのは十時過ぎになるだろう、無理してその日のうちに変える必要もない気がしたのだが。
「ちょっと、話したいことがあるから一晩泊めてもらいたいんだ」
「そっか、分かった。伝えとくな」
 そこで、会話が途切れて妙な間が流れる。切るわけにもいかず、誠也はなにか切り出すべく必死に考えるが何も浮かばない。困り果てた頃、春香が切り出した。
「他のみんなは?」
「ああ、盛夏祭の準備で出てる。梓は、寝てるけどな」
「そっか。ちょっと話したかったけど、帰ってからにするよ」
「おう、それじゃな」
 そういうと、電話は切れる。電話だけだが、少し印象の変わった春香。それだけ大きな変化だったということだろう。
「あいつも、頑張ってんだな……」
 そうつぶやくと、誠也は部屋に戻って出かける準備を始めた。


 つづく。
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