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星瞬きし空の下で 第二話 Eパート [星瞬きし空の下で]

「頑張ってるじゃないの、攻め手には欠けてるけど」
 桜、梓、椿の三人は、誠也たちが戦っているところから少し離れた斜面で観戦していた。
「ええ、五分持たないと思いましたからね」
「あはは、そこまで誠也は弱くないよ。それに、まともな刀も呪符もないんだもん、攻め手に欠けるのは仕方ないよ」
 一度、一緒に戦っている桜でさえ予想外なほどに、誠也は善戦していた。正直、危ない場面も何回かはあった。だが桜には、隆之たちは力の面では手加減していても、技術の面では手加減しているようには見えない。だから、二人の攻撃を捌ききっている、そのこと自体はとてもすごいことだと思う。でも、一つだけとても小さく気のせいかもしれなかったが、引っかかることがあった。
「「「ねえ」」」
 引っかかることがあったのは、梓と椿も同じだったらしい。でも、三人が三人ともばっちりのタイミングで言い出してしまったことで、顔を見合わせて笑うしかなかった。そして、このときはそうすれば忘れてしまえるような、その程度のものだったのだが。

「くそ、打って出なかったら負ける」
 こういうことは体に染み付いているのだろう、なんとか動いてくれているがもうこれ以上捌くことは難しくなってきていた。いくら霊力をこめているとはいえ、所詮はただの木である。真剣相手に斬りあってもつわけがない。そんな中で出来ることは既になくなりつつあった。
 そんなことを考えながら、奏がかざす水の呪符から生み出される水柱を避けた、いや、避けたはずだった。
「御身の姿を氷となせ!」
 その声が聞こえた瞬間、誠也の左側を通り抜けていっている水柱が、その姿を氷柱に変えて襲い掛かる。
「ぐっ!」
 いきなりのことに反応しきれず、とっさに受けた左腕が切り裂かれ、鮮血がふきだす。
 だが、攻撃はそれだけに終わらず、隆之が背後へと回り込むのがわかった。もう、勝つためには仕掛けるしか残されていない。だから、隆之の方へせめてもの牽制に、もはや役に立たないであろう木の枝を投げると、一気に間合いを詰め、奏に仕掛けた。
「終わってくれぇぇ!」
 持てる霊力の全てを拳にこめて放つ。だが、奏はそれにも余裕を持って対応する。
「障壁を!」
 もうこのままいくことしか出来ない。だが、それが逆に良かった。
「えっ」
 展開した障壁を突き破り、誠也の拳が奏の頬をかすめ、そこが赤く滲む。しかし、結界を張る符による障壁を力技で叩き割ったせいで、誠也の右腕はあちこちが裂けて、出血していた。
「ぐ、がっ」
 そんなうめき声を上げると、誠也はそのまま倒れこんでしまった。

「負けたんだな」
 奏の治癒結界の中でようやく起き上がった誠也だったが、まだ体のあちこちが軋む感じがした。
「そうね。だけどまさか、あの結界を破られるとは思わなかったな」
 そう言ってくれるのはうれしかったが、期待には応えられなかった気がする。そう思い、頭を下げたときだった。
「まったく、いつまで暗い顔してんの」
「負けたから資格なしとか考えているんでしょうけど」
「大丈夫、次は勝てるように特訓すれば言いだけの話だよ」
 いつのまにか近くに来ていた三人の言葉に、奏もうなずいて言う。
「そうそう、十分よ。これからちょっとキツイかもしれないけどね?」
 そう言って奏は隣にいる隆之の肩をたたく。ものすごーく、いやーな笑顔だった。
「ああ」
 そこで、隆之は一呼吸おく。しかし、げんなりしている誠也の耳に届いた言葉には驚きを隠せなかった。
「だから、私の清月流をやってみる気はないか?」
 清月流、桜も口にしていた流派名、だが誠也にはそのときに聞いただけではないような気がした。つまりそれは、記憶の手がかりかもしれないということ。なら、確かめる必要があると思ったから。
「お願いします」
「ああ。そのかわり、しっかり桜たちを守ってやってくれ」
 こんなどこの誰とも知れない人間を、ここまで信頼してくれていることが本当にありがたかった。だから。
「わかり……ました」
 その思いに応えようと思った、全力で。

 それからの数日間はあっという間に過ぎ、その週があけると同時に隆之たちは東京へと向かった。
その機内で、奏は隆之に話しかけた。
「どうして、誠也くんに清月流を教えたの?」
「誠也くんの動きを見て、教えないことに意味はないと感じたからだ」
 気がつかなかったわけではない、だが確信があったわけでもない。
「そっか、でも大丈夫よね。きっと」
「そうだな」
 短い時間の中で出来ることはした。あとは祈ることしか出来なかった。

「それじゃあ、いこうか」
「ああ」
 こうして、真新しい制服に身を包んだ三人と桜は、新たなる生活の第一歩を踏み出した。


 第二話・了
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