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星瞬きし空の下で 第三話 Bパート [星瞬きし空の下で]

 一限の開始時間を十五分ほどオーバーした頃、桜たちはようやく教室へと帰ってきた。思いっきり押しているので、担任の小柴茜先生も一緒に戻ってきて、教壇へと立った。
「全く、押して欲しくないときに限って話長いんだから。じゃあ何故なのか知らないけど、この時期に編入生が三人もいるのよね。まあさっさと済ませることにしましょうか、入ってきなさい」
 促されて誠也たち三人が入ってくる。誠也のときは女子から、梓と椿のときは男子から大きな歓声が上がった。
「じゃあ、ぱぱっと自己紹介」
 一番、教卓に近いところにいた誠也が一歩踏み出して一礼した。
「霧原誠也です。よろしく」
 とても当たり障りの無い挨拶をする誠也だったが、記憶喪失では話せるなにかがあるわけでもないから仕方ない。それに、それだけでも大半の女子はノックアウトされてしまったらしかった。
「橘椿と申します。よろしくお願いします」
 そう言って、椿は優雅に一礼する。今度は、男子連中の番である。
「柊梓といいます。よろしく」
 梓は、別に素で挨拶しても受けると思うのだが、なぜかやたら猫をかぶっている。そのせいもあってかやたら場が盛り上がっていたのだが、先生はそれを一喝する。
「はいはい、静かにする。それじゃあ席は白樺の隣に追加してあるから適当に座って」
 三人はうなずくと席へと移動する。それを確認して先生は話し始めた。
「それじゃあ、連絡事項……」
 そんなわけで、とりあえず午前中は平穏に過ごせるらしかった。

「霧原君かっこいいよね!!」
「うんうん!!」
 というのが女子の会話で、
「なあ、お前はどっちが好みだ?」
「俺は断然、橘さんだな。というかお前はどうなんだよ」
 というのが男子の会話と言うわけである。
 もっとも、今までは所詮十分休憩で、そう多く時間があったわけではないから、なんとかやり過ごすことも出来た。だが、この後訪れる昼休みには総攻撃? となるに決まっているのだから逃げたくなるのも無理からぬ話である。
「仕方ないよね」
 そうつぶやきながら、ポケットに手を当てて、忍ばせてある振動を発生させる呪符に力を送る。やろうと思えば対象に共振現象を起こして破壊することも可能な代物だが、そんな使い方をするのはごく一部で、もっぱら相手の鼓膜を振動させて会話するのに用いられるものだ。それを使って、誠也たち三人に話しかけた。
―ねえ、このままだとお昼が大変なことになるから……、逃げよう? ―
 そう呼びかけた。
―授業中ですよ。なにかあったっていうならともかく、雑談に力を使わないでください―
―あーもー、かたいこと言わない!! 私は嫌だからね、囲まれてただけの昼休みなんて―
―確かに、取り囲まれてる間に休み時間が終わってしまうのは……な―
 誠也にまでそう言われては、どうにも椿は旗色が悪い。正論なのは椿のほうなのだから気の毒ではあるが。
―……はあ、わかりました。で、具体的にどうするんです―
 授業の終了と同時に逃げるにしても、そんなに広いわけではない校内では、どうしても逃走ルートが限定されてしまう。脚が速いだけでは逃げ切れない、振り切るにも多少は策が必要だ。
―えと、一度下りて一階を少し回って疲れさせてから、屋上まで駆け上がるっていうのはどうかな―
 確かに、全力疾走させられた上で、階段駆け上がろうという気概がある学生はそうはいない。たぶんあきらめて食堂のほうへでも行くだろう、昼休みの時間くらいは稼げると思えた。
―いいんじゃないか、それで―
―そうね、それ以上やるのもそれはそれで面倒だしね―
 椿はしぶしぶと言う感じだったが、それでもうなずいてくれた。
 そう話がまとまったとき、ちょうど授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
 キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン
「よし、続きは次回だ。俺としても四限は長引かせたくないからな。ルーム長、号令」
「起立、礼」
 次の瞬間予想通り、クラスメイトたちが一斉に振り向きターゲットを視界に納めようとするが、すでに誠也たち四人が廊下へと出て行くところだった。あわてて追いかけるクラスメイトたちが教室から出ると、階段を下りていく姿が見えた。そちらへ殺到していくクラスメイトたちを尻目に、余裕の笑みで残っている二人と、興味なさそうにしている一人がいた。
「どうやら、結論は同じのようだな」
「そうみたいね」
 深耶は慎吾を軽くあしらいながら、一人残っている春香に声をかけた。
「春香も行く?」
 春香は少し考えてから、うなずいて立ち上がった。
「さて、ではいくか。白樺め、そう簡単に俺の裏がかけると思うな」
 そういうと三人は、一路屋上を目指した。


 つづく。
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