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星瞬きし宇宙の海で 第六話 Fパート [星瞬きし宇宙の海で]

 霊子砲。
 それが美咲の言うアレの名前。現行艦艇の標準装備となっている艦首大型重力波砲の替わりとして夕霧に搭載されたそれは、霊力に特定の指向性を持たせて放射するという、極めて単純なシロモノではあるが、霊力を放射するために全ての物理法則を無視し、歪曲場フィールドどころか物理装甲も貫通して撃破することが可能であり、指向性の持たせ方によっては、中の人間だけ殺すと言った芸当すら可能な凶悪な兵器である。それゆえ、和葉は“人に向けて撃つ”ことを躊躇うのだ。

 しかし、そんな理由で撃つことを躊躇うような兵器なら、そもそも造らなければよかったはず。それでも造られたのには当然理由がある。7艦隊が担う霊的災厄への対処のため、もちろんそれもあるが、それは副次的なもので、もしそれだけが理由であれば、和葉は造らなかっただろう。人が住み始めてからまだ日の浅いこの地には、怨念その他の蓄積が少なく、霊的災厄が起きたとしても当面は小規模に留まるだろうと想定されている。将来に備えて研究はさせたかもしれないが、実際に建造して搭載することはしなかったはずだ。ならば、本命の理由はなにか。それはこの技術が完全に自前の技術で、LS1を造ったものたちに対抗できると考えられる唯一の技術だからである。

 そもそも、霊力を持たない人間にとって、霊的災厄など非現実的な脅威でしかない。しかし、LS1という証拠がある以上、起源を別にする知的生命体の存在は現実なのである。そして今、大和星系国家は彼らの作り出したLS1によってもたらされた技術に頼り切っている。この状況で、もし彼らがこの星系に帰還して敵対的な行動をとった場合、対処する手段がない。彼らの知見にタダ乗りして昨日今日使い始めた技術で、本家本元のそれに対抗しうるわけがないのは当たり前のこと。

 現実に打ち勝つ、そのためにこそ非現実的なこの兵器は必要なのだ。


 つづく。
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